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映像ディレクター
藤代雄一朗

見慣れた風景をかけがえのない映像に変える
映像作家

α Universe editorial team

映像ディレクターの藤代雄一朗監督を紹介する上で欠かすことのできないのが、水曜日のカンパネラの存在。これまでに「竹久夢二」「マリー・アントワネット」「モスラ」「カンフー・レディー」「千利休」「インカ」「シャクシャイン」「西玉夫」と実に8本のミュージックビデオ(以下MV)を監督し、この8本だけで1300万PV(ページビュー)を突破。アーティスト、そして藤代監督が広く知られるきっかけを作った。その後もMV を中心にCM(Google Android)、コンセプトムービー(横浜DeNA ベイスターズ「I ☆ YOKOHAMA2016」)など、幅広い分野で活躍している。 藤代雄一朗監督の映像の特長はまずそのビジュアルの美しさ。自ら撮影する映像はフィルムカメラで撮ったかのような情感があり、見る者を惹きつける。一方、演出は大胆な発想が印象的。歌詞に頼らない独自の設定を構築し、何度でも見たくなるような工夫が散りばめられている。 藤代監督はデジタル一眼1 台で撮影・編集を行なうワンオペレーションが基本スタイル。これまでは他社のカメラを使っていたが、今年からソニーα7S で制作を行なっている。デジタル一眼動画の面白さを知り尽くした藤代監督にαの映像はどのように見えているのか。監督の映像への取り組みについて深く探っていく。

作曲からWEB 制作、そして一転、映像ディレクターに

――水曜日のカンパネラと出合う以前、藤代監督はほとんど映像を作っていなかったそうですね。
藤代 学生時代は写真を撮っていて、社会人になってからはWeb ディレクターとして、Web のメディアを作りたいという気持ちの方が強かったです。友達とWeb サイトを作って女の子の写真を撮ったり、記事を作ったりしていました。そののち動画サイトなどでいいなと思う動画作品を追いかけているうちに、「作れる気がする」と当時使っていたデジタル一眼で動画を作り始めました。水曜日のカンパネラとはちょうど映像を始めたタイミングで一緒にやってみることになったのです。

――スチル出身の人には編集が苦手という人が多いんですけど、藤代監督は抵抗なくできていますね。
藤代 高校の頃は音楽を作ってWeb で公開して、叩かれていました(笑)。映像の編集も曲を作って編集していた頃と同じようにやれたので苦手意識はなかったです。MV は音楽の編集と似ているところが多くて、音に合わせていくところに面白さを感じています。曲ありきで映像を作っていけたのも映像にすんなり移行できた要因かもしれません。

S-Log 収録に惹かれてα7S を導入

――α7S を使ってみようと思ったのにはなにかきっかけがあるのですか。
藤代 それまで使っているカメラに不満があったわけではないのですが、研究のためにVimeo(映像配信のプラットフォームサイト)の外国人ディレクターの映像を見ている中でRAW の動画が綺麗だと気づいて、自分でもやってみようと思ったんですけど、RAW 対応の機材や編集環境を揃えるのがなかなか難しい。迷っている時にVimeo にα7S の動画が増えてきて、S-Log で撮影したものにグレーディングをして投稿している映像を見ました。RAW で撮った映像かのようにトーンや色味を調整できることを知って、そのS-Log が決め手になってα7S を購入しました。α7S を使っている監督に相談した際におすすめポイントとして必ずあがる高感度とHS(ハイスピード)撮影も魅力でしたし。水曜日のカンパネラの「西玉夫」で初めて使って、それ以降はずっとこのカメラで撮っています。

苔と寺を撮るのが好きです

――藤代監督は実景の映像が上手いですね。そこはご自身で意識しているのですか。
藤代 スチル写真を撮っている時から風景を撮るのが好きだったというのはあると思います。特に苔と寺が好きですね(笑)。もともと意図してこういう映像を撮ろうと思っていたわけではなくて、海外の映像サイトで三脚に付けるスライダーを使った映像を見て「これだ」と。三脚で普通に撮るよりもリッチな映像が撮れると気づいて多用しています。水曜日のカンパネラはイントロが長いので、実景をすーっと撮る映像と(トラックメイカーの)ケンモチヒデフミさんの哀愁のあるストリングスとがマッチしたんだと思います。

見続けられる映像を作りたい

――MV は実際どうやって演出しているのですか。
藤代 最初に「とあるところに探偵がいて、ある事件を追っている」みたいなお話を作り、出演者にはそれを見てもらいます。楽曲の中で絶対に注目して欲しい部分は何をするのかを決めているのですけど、それ以外のシーンはエクセルデータに歌詞を書いて、この時にこういうことをするという構成を作ります。楽曲に沿って映像を作ると予定調和になるので、わけわからないことがどんどん起こって見続けられるような映像がいいと思っています。できれば15 秒に1 度は次の場面が気になるように場面転換させて、見る人を飽きさせない演出ができればいいなと考えています。

MV では毎回ギミックを入れていきたい

Universal Music LLC BENI「夏の思い出」

監督+撮影=藤代雄一朗 撮影助手+サウンドレコーディング=宮本正樹 照明=田上直人 照明助手=清水謙一朗 エクゼクティブプロデューサー=南雲隆行 プロデューサー=森口典孝 スタイリスト=末吉久美子 ヘアメイク=野尻七衣・Tori. (for BENI) キャスティング=鷲野令奈 サウンドエフェクト=清川進也 プロダクションマネージャー=中谷公祐・加藤千尋・市純一

――MV を作る上で意識していることはありますか。
藤代 MV を作る時は毎回何かしらのギミックを入れたいと思っています。自分の技術向上のためにも見たことあるんだけどどうやるのかわからないという表現をやってみて勉強するという。「夏の思い出」はα7S とFS7 で撮りました。早回しと通常のスピードの同居した世界を描きたいなと思いました。逆回転も使っています。狭い店内の撮影などは機動力があって使い慣れているα7S で撮っています。おじさんたちのぎくしゃくした動きは体操のように「1・2・3」とゆっくり動いた映像を4 倍速しています。
「西玉夫」でコムアイさんの体がぐにょんと変形するところはSlitScan を使っています。画面を細かく刻んで再生スピードを変えます。画面上の方は速くなど、時間をちょっとズラすと上半身だけ先に進んで下半身が後からついてくるように見えるのです。

つばさレコーズ 水曜日のカンパネラ「西玉夫」(ギミックのシーンは1:17)

監督+撮影=藤代雄一朗 スタイリスト=田浦幸司 ヘアメイク=今村友美

ソニーα7S の制作にも慣れ、S-Logでのグレーディングにも着手した藤代監督。10 月15日発売の「コマーシャル・フォト」11 月号では、ライブ収録、最新のMV の制作事例をもとに藤代監督の絵作りの秘密に迫っていく。

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