ソニー発、ゲーミングギア INZONE

ゲーミングモニター「INZONE M9」開発者に聞く ゲーミングモニター『INZONE M9』/『INZONE M3』

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2022年ソニーが立ち上げたゲーミングギア製品ブランド「INZONE」第一弾製品であるゲーミングモニター「M9」は、その高画質が評価される一方で、独特なスタンドデザインや大きなアダプター、金額設定に関してはSNSや各レビューサイトで批判的なレビューも寄せられている。ガジェットライターの照沼健太氏が、同製品の開発者である竹田右京氏にそういった製品レビューに対するスタンスを伺い、寄せられている意見に対して真摯に向き合い回答してもらった。

MEMBERS
  • 画質設計担当
    ソニー株式会社

    竹田

  • ガジェット系ライター
    照沼氏

ソニー開発者は製品レビューをチェックしている?

ELDEN RING: ©Bandai Namco Entertainment Inc. / ©2022 FromSoftware, Inc.

照沼:竹田さんはじめソニー開発者の皆さんは、YouTubeやブログ、メディアなどの製品レビューをチェックされていますか?

竹田:はい。みんなチェックしていますよ。日本のレビューだけではなく、広く海外の方々のリアクションも見るようにしています。

照沼:日本と海外とでレビュー傾向に違いはありますか?

竹田:海外のレビューの方がはっきりと良い面も悪い面もご指摘いただいている印象です。日本のレビューは遠慮されているのか、全体的にポジティブなご意見に偏っている印象もあります。

照沼:メディアや個人ブロガー、YouTuberなどでレビュー傾向に違いはありますか?私はメディアとしても個人ブロガーとしてもレビューを書く機会があるのですが。

竹田:メディアやYouTuberのみなさんよりも、個人ブログのほうがストレートな意見が多い気がします。やっぱりメディアやYouTubeで名前や顔を出していると悪いことを言いづらいのでしょうか。ちなみにメディアのレビューですが、かなり詳細にレビューしてくれているメディアもある一方で、ソニーのウェブサイトに掲載されているスペックシートやリリースをまとめただけに見えるような、正直「本当に使っていただけたのかな?」と感じるレビューも少なくありません(笑)。

照沼:メディアで仕事をしている身としては耳が痛い……(笑)。

竹田:すみません(笑)。

照沼:これはぜひお聞きしたいのですが、製品レビューが新製品開発やファームウェアのアップデート内容などに影響することはありますか?

竹田:はい、あります。かなり手厳しい評価をいただくこともありますが、そういったご意見にはしっかりと向き合って、次回の製品やファームウェアなどで対応できないか、常に前向きに検討しています。

「M9」が目指したのは、ゲーム業界に一つの映像基準を作ること

照沼:意地悪なようですが、今日は竹田さんが手がけたゲーミングモニター「M9」に寄せられたレビューを題材にお話しできればと思います。

竹田:はい。よろしくお願いします(笑)。

照沼:その前に、「M9」がどのような狙いで作られた製品なのか、改めて竹田さんからご説明いただけますか?

竹田:「M9」最大の特徴は「高画質」なゲーミングモニターであることです。画質面ついては、数多くのレビューで非常に高評価をいただいており、とても嬉しく感じています。

照沼:ソニー初のゲーミングモニター開発にあたり「高画質」にこだわることにした理由とは?

竹田:「M9」開発に先駆けて世の中のゲーミングモニターを調べたところ、その多くの製品がPCメーカーによって「PC周辺機器」として設計・外注されていることがわかりました。そこで長年映像機器を開発してきたソニーであれば、画質面によりこだわった製品が作れると考え、「ゲームクリエイターの意図した映像をしっかり再現し、ゲーマーがよりゲームの世界に没入できる画質を実現できるモニター」を目指すことにしました。

照沼:ここでいう「画質」とは、具体的にどのような要素でしょうか?

竹田:高い水準でのHDR※を実現する「コントラスト比」と、正確に色を表現する「色の再現性」です。
※ハイダイナミックレンジの略称。通常のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)よりも明暗差が広い映像を実現するフォーマット。

照沼:なるほど。HDRは「なんとなく良いらしい」という感覚で浸透している印象がありますが、具体的には明暗差が広くなるとどのようなメリットがあるのでしょうか?

竹田:ゲーム映像への没入感が増すというのがHDRの大きなメリットだと思います。そして「M9」の開発においては、ゲーマーだけでなくゲームクリエイターの方々にも使っていただけるような、「ゲーム業界におけるHDR映像の基準」を作ることを一つの目標としました。

照沼:ゲーム業界にはHDRタイトル制作時に基準がないのでしょうか?映画は厳密な規格に則って制作され、数百万円するようなマスターモニターで映像をチェックしますよね。

竹田:ゲーム業界にとってHDRは新しい規格であり、まだまだ黎明期なんです。ですので、HDRに対応したゲームタイトルはその多くがSDR環境で制作されているのが現状です。

照沼:なるほど。私自身HDRタイトルをプレイしてもハッキリとその違いが認識できないことが多かったのですが、まだ制作サイドでの基準も曖昧だったというわけですね。

竹田:『M9』では、クリエイターの方はもちろん、ゲーマーの皆様がよりHDRの違いが分かるようにしたいと考えました。そのため「Display HDR 600」という規格の認証を取得した上で、実際はその基準輝度を上回る750ニトまで出るように設計しています。また、SIE※と協力してPS5との接続時には正確なHDRが表現できるように調整も行ないました。
※ソニー・インタラクティブエンタテインメント。PlayStation®ハードウェアおよびソフトウェアの企画・開発・製造・販売を行なっている。

照沼:SIEは数あるゲームメーカーの中でもHDRに力を入れているのでしょうか?

竹田:はい。私の印象となりますが、『グランツーリスモ』シリーズなどSIEとその傘下のメーカーによるタイトルは、正確なHDR表現に非常に力を入れていると感じますね。PCゲームにおいては、これまでWindows自体のHDR対応が甘いという課題はあったのですが、Windows 11から改善が図られているようですので、今後より良くなっていくことを期待しています。

照沼:「M9」に対するゲームクリエイターからの反響はいかがでしたか?

竹田:そして、実際にゲームクリエイターの方々に「M9」を使っていただいたところ「HDRって本当はこう表現されるんだ」という驚きの声が上がっていました。ぜひ「M9」をプロのゲームクリエイターの方々の現場でも使ってほしいと思っています。

真正面からお話しします。
「M9」に寄せられたレビューに開発者本人がアンサー

ELDEN RING: ©Bandai Namco Entertainment Inc. / ©2022 FromSoftware, Inc.

照沼:HDRの話が盛り上がってしまいましたが、ここで製品レビューに話を戻そうと思います(笑)。竹田さんとしては、全体的に「M9」のレビューにどのような手応えを感じていますか?

竹田:「M9」最大の特徴である「画質」が高評価をいただいている一方、同じく特徴の一つであるスタンドを中心としたデザインについてはスタイリッシュでPS5との親和性もいいと高く評価いただいている一方で、なかには批判的なご意見もあり、総合的にはネガティブ寄りの評判となってしまっていると感じています。

照沼:なるほど。画質面では狙い通りの反応を得られ、逆にデザイン面では必ずしも狙った反応を得られた訳ではなかったのですね。

竹田:はい。ご批判をいただいている点についても、私たちなりの考えがあってあえて設計した部分が多々あります。それらのコンセプトがうまく伝えられなかった部分もあれば、設計を超えた使い方をしていただく方が多かったというすれ違いもありました。

照沼:私も「M9」のレビューを一通りチェックしましたが、なかなか手厳しい評価もありましたね。

竹田:ソフトウェアの不具合など全面的に弊社の想定が甘かった点もあり、至らない点があったのは大変申し訳なく思っています。ただ、多くの厳しいご意見をいただけるのは大変ありがたいことだと思っています。というのも、「M9」のレビューを拝見して特に感じるのは、想像以上に高い注目が集まっていたことでした。
具体的には「ゲーミングモニター」という枠を超えて、「ソニーが十数年ぶりに発売するPCモニター」として興味を持っていただく方が多かったのではないかと感じています。

照沼:「M9」をゲーム以外の用途で使われているユーザーが多いということでしょうか?

竹田:そうです。アンケートなどの情報を分析したところ、想像以上にゲーム用途ではない使われ方をしていることがわかりました。

照沼:「ソニー製モニター」という点に対する期待値の表れですよね。

竹田:ほかにも、ゲーミングモニターとしては高価格帯の製品であることから「これ一台でなんでもこなしたい=オールインワン」的なご要望が想定よりも多く、コンセプトとニーズにズレが生まれてしまったのではないかとも考えています。ゲーム以外でのご使用は、とくに日本のお客さまに多い印象です。

照沼:私個人としては「なんでもこなしたい」というユーザーさんの考えも、「ゲーミングモニターを作りたい」という開発者の考えも、両方理解できます。それだけになんとも苦しいですね。

竹田:「オールインワン」を求める発想と、ゲーミングモニターとしての「M9」設計とのズレを感じた部分としては、まずスピーカーが挙げられます。

照沼:たしかに「M9」のスピーカー音質はあまり評判が良くないですよね。個人的にも「M9」を使っていて、全体の音量不足に加え、低音の出力がかなり弱く感じました。

竹田:ゲーミングモニターにはスピーカー非搭載の製品が多いのですが、我々は「M9」をヘッドセットや外部スピーカーを持っていないゲーマーにも使ってもらいたいと考えました。その目標に対し、価格やモニター本体の大きさや重量にあまり影響しない範囲で、製品全体のバランスを第一に考えたスピーカーを搭載したつもりだったんです。

照沼:カメラの内蔵フラッシュみたいな発想ですよね。「最低限の発光はしますが、綺麗な写真が撮りたければ外付けのフラッシュを使ってください」的な。

竹田:「M9」も高音質を求める方には外部スピーカーやヘッドセットを使ってもらう前提でのスピーカー設計だったのですが、やはりお客さんはオールインワン的な発想が強かったようで、企画以上の品質が求められてギャップが不満につながってしまったと考えています。

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