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Engineer's Interview デジタルサラウンドヘッドホン MDR-HW700DS 開発者インタビュー

ソニー、デジタルサラウンドヘッドホンの集大成
究極の9.1ch化を実現した「MDR-HW700DS」開発秘話

取材:山本 敦

ソニーのデジタルサラウンドヘッドホンが、満を持して約2年ぶりのモデルチェンジを遂げた。独自のバーチャルサラウンド技術「3D VPT」による世界初の9.1ch対応や、2.4GHz帯/5GHz帯の「デュアルバンド無線方式」の採用、コンテンツクリエイターたちとのコラボレーションによって、さらに磨きのかかった「シネマモード」「ゲームモード」のエフェクト機能など、最新モデル「MDR-HW700DS」の進化したポイントを数え上げれば枚挙に暇がない。本機の開発をリードしてきたソニーの井出賢二氏、菊地正人氏を訪ね、MDR-HW700DSが開発された背景や、搭載された先端技術の数々について詳しく話をうかがった。

ソニーのデジタルサラウンドヘッドホンで
我が家が映画館に早変わりする

はじめにデジタルサラウンドヘッドホンとはどのような製品なのか、MDR-HW700DSのシステム構成を確認してみよう。 本機はオーバーヘッドタイプのヘッドホンと、BDプレーヤーやPlayStation®3など外部ソース機器からの音声信号を受け取って処理を行うプロセッサーによる2ピースで、9.1chのサラウンド再生環境がつくれるシステム構成だ。ヘッドホンとプロセッサーの間はデジタル無線方式によるワイヤレス信号伝送に対応している。無線信号の到達距離は最長30mまで実現しているので、リビングやシアタールームの中を自由に移動しながらコンテンツの視聴が楽しめる。プロセッサーには入力信号のパススルーにも対応するHDMIの入力が3系統、出力が1系統搭載されているので、AVセレクターとしての役割も果たしてくれる。

MDR-HW700DS

リビングに大きな画面の薄型テレビはあるけれど、テレビのスピーカーでは音が物足りないので、せっかくだからホームシアター環境をつくって迫力のサラウンドを楽しみたいという方も多いはず。ところがMDR-HW700DSが対応している9.1chのサラウンド環境を実現するためには、サラウンドスピーカーを9本にサブウーファーを1基、合計10本のスピーカーとAVアンプも用意しなければならない。こうなると当然、部屋の中に機器を置くためのスペースを確保する必要があるし、システム一式を揃えるための費用もばかにならない。MDR-HW700DSの場合、ヘッドホンとプロセッサーのシンプルな2ピースが揃えば、手軽に9.1chのサラウンド環境が作れるうえ、周囲への音漏れがないヘッドホンのメリットが活かせるので、例えば仕事から帰宅して、夜からでも映画やゲームを迫力のサラウンド音声と一緒に楽しむことができるのだ。集合住宅に暮らす方々にとっても、非常にベネフィットの大きいサラウンド再生システムであると言えるだろう。

ソニーは1998年に発売した世界初の5.1ch対応デジタルサラウンドヘッドホン「MDR-DS5000」以来、現在までサラウンドヘッドホンの進化を常にリードし続けてきたブランドだ。映画やゲームなど、サラウンドの音場感を活かしたリッチコンテンツが年々増え続けるとともに、手軽に高品位なサラウンドが楽しめる製品へのユーザーニーズも拡大する一方だ。ヘッドホンを装着するだけで映画館の中で映画を楽しんでいるような、あるいはゲームの世界に入り込んだようなリアルな臨場感を追求して、ソニーのデジタルサラウンドヘッドホンはこれまでも暇なく進化を続けてきた。

独自技術「3D VPT」によりデジタルサラウンドヘッドホンで
世界初の9.1ch対応を実現

そのソニーのデジタルサラウンドヘッドホンの心臓部分にあたるのが、今回の新製品MDR-HW700DSにも採用されている「VPT(Virtualphones Technology)」と呼ばれるソニーの独自技術だ。

VPT ロゴ

VPT(Virtualphones Technology)ロゴ

2009年発売の7.1ch対応デジタルサラウンドヘッドホン「MDR-DS7100」の電気設計を担当し、以来デジタルサラウンドヘッドホンを専門に担当する菊地氏に、これまでのVPT技術の開発の軌跡を辿ってもらった。菊地氏はMDR-HW700DSの開発には、原理検討の段階から電気設計に携わるとともに、プロジェクトリーダーとしても活躍する人物だ。

菊地正人氏

ソニー ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計 3課 菊地正人氏

「1998年に発売されたMDR-DS5000以降、ソニーは歴代デジタルサラウンドヘッドホンの全機種にVPT技術を採用しています。そしてMDR-HW700DSに到達するまでにも、VPTは何度も進化してきました」(菊地氏)

通常のヘッドホンで音楽を聴くと、左右の耳から入ってくる音が頭の中で定位する「頭内定位」と呼ばれる現象が発生することから、「音の方向感」を出しながら、サラウンド感を再現することは難しいとされていた。そこでソニーは人間の聴覚研究をベースに、独自の音響解析とデジタル信号処理技術を駆使することで、映画館やライブホールなどの音場をヘッドホンの左右のスピーカーだけで再現するバーチャルサラウンド技術「VPT」を開発した。この技術によって、ヘッドホンを装着した状態でリスナーの「頭外」に音像を定位させることが可能になり、あたかもリスナーの前方や後方に配置されたスピーカーから自然に再生されているような、リアルな音場が再現できるようになったのだ。

2011年に発売された前機種の「MDR-DS7500」には、水平配置のサラウンド音場だけでなく、高さ・奥行き方向へさらに立体的な音場感をつくり出す「3D VPT」が採用され、そして遂にMDR-HW700DSではデジタルサラウンドヘッドホンとして、世界で初めて9.1ch化を実現した。

VPT独自の音づくりの特徴はどんなところにあるのだろうか。前機種のMDR-DS7500からデジタルサラウンドヘッドホンの音質決定を担当する井出氏にうかがった。井出氏は他にもソニーのヘッドホンの音質決定にも関わる“音のスペシャリスト”だ。

井出賢二氏

ソニー ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計 4課 井出賢二氏

「ソニーの開発チームは、独自に理想とすべきサラウンド音場のデータを蓄積してきました。これに合わせて、ヘッドホンの音響特性も過去に開発してきたモデルのノウハウを参照しながら、サラウンド再生に最適な音響特性をヘッドホンだけで作り込むことができます。その上に独自技術であるVPTの信号処理を組み合わせることで、よりリアルなサラウンド音場を完成させるという手法を採っています。目指すべき音に向けて、音響とソフトウェアの両面から取り組めるところがソニーの強みです」(井出氏)

最新モデルのMDR-HW700DSでは、まだ一般的にサラウンド環境としてあまり聴き馴染みのない「9.1ch対応」を、コンパクトなサラウンドヘッドホンで実現してきた。その意図について井出氏は、「最新技術をいち早く取り込むことは、ソニーのデジタルサラウンドヘッドホンが常に目指してきたことです。確かに9.1chの音声を収録したコンテンツはまだ世の中にありませんが、近い将来に出てくることを想定しながら、先んじて対応していくことが大事と考えました」と説明する。

前機種のMDR-DS7500では7.1ch対応の「3D VPT」に到達。ここに新しく2chを加えるためには、サラウンド音場を正確に再現するためのプラットフォーム開発と、その品質向上が大きなキーポイントとなった。

9.1ch 3D VPT

9.1ch 3D VPT(Virtualphones Technology)が臨場感あふれるサラウンド音場を再現

「通常のフロントL/R、センター、リアL/Rにサブウーファーで構成される5.1ch環境に、9.1chではサラウンドバックとフロントハイトのL/Rによる合計4chが加わります。現在リファレンスにできるサラウンドソースは7.1chの音源しかなかったので、これを9.1ch化して聴いた時にも、自然に聴こえるように音をつくってきました。9.1ch化による信号処理の負荷も当然大きくなりますので、MDR-HW700DSでは前機種から演算能力を大幅に向上させ、最大2.4GFLOPSの処理性能を持った新しいDSPを採用しています。このDSPを2基搭載して、それぞれにサラウンド信号のデコードと、VPT処理に特化させています」(井出氏)

新DSPプラットフォーム

新DSPプラットフォーム

より高速かつ正確にサラウンド信号を処理できるようになったことで、リスナーの背面に回り込む音や、上から降ってくるような高さ方向の効果音についても、より自然なリスニング感が得られるよう井出氏は音づくりにこだわってきたという。

MDR-HW700DSに搭載されたDSPのチューニングには、ソニーのオーディオ信号処理研究チームが関わっているという。菊地氏は「音響設計が求めるトーンバランスやゲインに対して、DSPチームがソフトウェア側から処理を加えて、ハードとソフトの両面から最適化を行ってきました。さらに電気設計チームは非常に複雑な回路設計の中で、映画のソース再生に求められる高S/Nを確保するため、アナログのオーディオ部分、特にヘッドホンのアンプの性能をギリギリまで追い込んできました」と振り返る。

こうした数々の取り組みを経て、MDR-HW700DSでは全方向に自然で滑らかな音のつながりを特徴とする9.1chサラウンド再生が実現された。スピーカーの数が多くなるほど、個々のスピーカーがその存在を主張してくるような、派手なサラウンド音場をイメージしがちだが、井出氏はむしろ「自然なつながりを持ったサラウンド音場は、映画やゲームの世界への没入感をより高めることができます。結果として、リスナーはよりいっそう高い臨場感が得られるようになります」と、ソニーの音づくりのコンセプトに自信をみせる。

進化した「シネマモード」と「ゲームモード」

MDR-HW700DSには「ゲームモード」と「シネマモード」という、2種類のエフェクト機能が搭載されており、コンテンツに合わせて好みのサラウンド音場を調整することができる。2007年発売の7.1ch対応デジタルサラウンドヘッドホン「MDR-DS7000」に初めて採用された「ゲームモード」は、最新モデルのMDR-HW700DSではさらにブラッシュアップが図られた。

「ゲームモードは、私たちのグループ会社であるソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の協力を得ながら開発してきました。MDR-HW700DSでは、SCEの開発スタッフとさらにコラボレーションを深めながら、サラウンド再生の方向感や奥行き感がよりハッキリとわかるよう、音を調整してきました」(井出氏)

井出氏

ソニーのデジタルサラウンドヘッドホンが目指している音づくりのコンセプトは、「映画や音楽、ゲームのコンテンツクリエイターが意図している音場を、ヘッドホンで忠実に再現すること」であると井出氏は説明する。そのために、ヘッドホンの開発担当者たちも、コンテンツクリエイターたちから寄せられる意見・要望へ熱心に耳を傾けながら、製作者たちの意志を正確に再現できるデジタルサラウンドヘッドホンを目指してきた。グループ会社にあらゆるジャンルの一流コンテンツクリエイターを抱え、ハードウェアの開発にコンテンツサイドの感性をダイレクトに反映させながら、ものづくりが行えることはソニーの最も大きな強みの一つだ。

昨今のゲームコンテンツの傾向に合わせて、MDR-HW700DSでは何か特別なサウンドチューニングを行っているのだろうか。井出氏はこう答える。

「特定のジャンルやタイトルをリファレンスに設定するのではなく、SCEのクリエイターたちが目指す音に近づけながら、様々なゲームコンテンツを使って評価とフィードバックを繰り返すことで音質のブラッシュアップを図ってきました。MDR-HW700DSではサウンド全体の解像感が上がったことと、低域の再現力が高まったことで、全てのゲームでベストの音場を再現できるゲームモードに仕上がっています」(井出氏)

井出氏の言葉からは、新しいゲームモードの完成度に絶対の自信を伺い取ることができる。ソニーの開発現場では、VPT技術の専任開発スタッフがSCEのクリエイターやヘッドホンの開発チームから寄せられるリクエストに対して、迅速かつベストな回答を素速く提供できる体制が整っているという。

さらにサラウンドが9.1ch対応となったことによって、ゲームコンテンツを楽しむ際にも密度の高い音場感や、自然な音のつながり感がゲームの臨場感をひときわ引き立たせてくれると菊地氏は語る。「レーシングゲームであれば背後から迫る車のエンジン音や風切り音、FPS(First Person shooter)スタイルのシューティングゲームは、人の息づかいや背後から聴こえるエフェクトが自然に移動して、より正確な方向感が再現できます。MDR-HW700DSでは全てのゲームに対して、最高のサラウンドを提供できるという自負を持っています」(菊地氏)

もう一つのサラウンドエフェクトである「シネマモード」の進化についてはどうだろうか。

ソニーでは2005年に発売した5.1ch対応デジタルサラウンドヘッドホン「MDR-DS6000」に初めてシネマモードを採用した。その後、前機種のMDR-DS7500では、映画制作/配給/販売を行う米ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)の協力・監修を得て、「理想的な映画館の音場」を再現した、「新」シネマモードが搭載され、まさしく新たなスタートが切られた。

そして最新モデルであるMDR-HW700DSに搭載されたシネマモードの音質決定には、1992年に米国で公開された作品『ドラキュラ』で、アカデミー賞®・音響編集賞を受賞したSPEのサウンドエディター/デザイナーのTom McCarthy氏が監修に携わっている。エンターテインメント業界で数々の賞を受賞しているTom McCarthy氏によるディレクションのもと、ソニーの設計者がチューンアップを繰り返し行ってきたことで、「新」シネマモードではまるで映画館にいるような9.1chサラウンドの音場をヘッドホンで実現している。

Tom McCarthy氏

SPEサウンドエディター/ デザイナー Tom McCarthy氏

「シネマモードの音質決定にSPEのエンジニアが参加した製品はMDR-DS7500が最初になりますが、彼らとの関係自体は既にその前のモデルであるMDR-DS7100の発売よりも早く、2008年からスタートしていました。ソニーのヘッドホン開発チームが試作機をアメリカのスタジオに持ち込んで、ディスカッションを重ねながら音質を練り上げていくという作業を何度も繰り返してきました。そのためMDR-DS7100からシネマモードの音質は劇的に向上していますが、最新モデルのMDR-HW700DSではTom McCarthy氏の監修により、低音の実体感や、奥行きの深さが前のモデルよりも飛躍的に高まっています。またセンターチャンネルの明瞭度も上がっていますので、セリフもより自然に聴こえるようになっています」(井出氏)

オーディオ用ヘッドホンと同様に、近年は映画のサラウンドも「重低音のインパクト再現」がますます重視されつつあると井出氏は説明を続ける。「映画館で作品を鑑賞すると、“ドン”とくる重低音のインパクトに圧倒されるはずです。これを通常のヘッドホンで再現することは非常に難しいのですが、MDR-HW700DSでは超低域のレスポンスをさらに高めたことで、映画館のリアルな低音がそのまま再現できるようになりました」

MDR-HW700DSには「Dolby Pro Logic IIz」と「DTS Neo:X」の、2種類のマトリクスデコーダーが搭載されたことにも注目したい。エフェクトを「ゲームモード」、または「シネマモード」に設定すると、どちらかのマトリクスデコーダーが選べるようになり、通常の2ch/5ch/7.1chの入力音声信号を、フロントハイトL/Rを含む最大9.1chのサラウンド音声に拡張して楽しめる。

「今回はドルビーとDTSの最新9.1ch対応のサラウンド技術を搭載しました。どちらのマトリクスデコーダーを選んでも、VPT技術による9.1chの音場処理をかけて最適なサラウンド音場を提供します。マトリクスデコーダーは元のソースを9.1chに拡張して付加的なサラウンド信号を加えてくれるので、より臨場感豊かなサラウンド音場が楽しめることが特徴です」(菊地氏)

井出氏は「ドルビー、DTSのデコーダーはどんなソースを再生した時にも最適な音場になるよう設定されていますが、実際に音を聴いて試しながら、よりつながりが良く感じられるデコーダーを切り替えてサラウンド感の違いを楽しんでもらいたいと思います」

音切れのないワイヤレスリスニングを可能にする
「デュアルバンド無線方式」

ソニーのデジタルサラウンドヘッドホンでは、独自技術の9.1ch対応「3D VPT」を中核に、あらゆるサラウンドのコンテンツに対してベストな音場を実現するための妥協なき開発が行われてきたことが、ここまでのインタビューでおわかりいただけただろうか。

高品位なサラウンド再生をユーザーが快適に楽しめるよう、ワイヤレス技術やヘッドホン自体の使い心地が徹底的に高められたことも、MDR-HW7000DSの進化を語る上で非常に重要なポイントになる。

ワイヤレス再生の使用感向上につながる機能として、2.4GHz帯と5GHz帯のデジタルワイヤレス伝送に対応する「デュアルバンド無線方式」が挙げられる。その効果について井出氏は「無線の電波が多く飛び交う環境では、まれに他の無線機器からの電波干渉によって、視聴中に“音切れ”が発生してしまうことがありました。MDR-HW700DSでは、2.4GHz帯の帯域が混み合ってノイズが発生した場合、5GHz帯へ自動でチャンネルを移動させるリアルタイムチャンネルセレクション機能を搭載しました。これによって音切れすることなく、快適なリスニングを楽しむことができます」とその効果を説く。

デュアルバンド無線方式

音声が途切れにくいデュアルバンド無線方式

菊地氏は無線伝送対応の電子機器が増えてきたことによって、ワイヤレスヘッドホンの使用環境も変わりつつあると指摘する。

「昨今の2.4GHz帯のWi-Fi環境は非常に混雑しています。仮にデジタルサラウンドヘッドホンに音切れが発生しなかったとしても、ヘッドホン側が他の機器に影響を与えてしまうことも考えられます。そこでMDR-HW700DSでは2つの周波数帯域を使用しながら、効率的に干渉を自動回避するシステムを採り入れました。2.4GHz帯は5GHz帯と比べて物理的にも距離による電波の減衰が少なく、より遠くに飛ばせることが特長です。一方で5GHz帯はそもそも現在の日本の電波環境では利用する無線機器が少ないため、干渉が発生しにくいというメリットがあります」(菊地氏)

現時点で空きチャンネルの多い5GHz帯に拡張できれば、音切れの心配が確実に減らせるというメリットを着目したのが、この「リアルタイムチャンネルセレクション」の機能というわけだ。プロセッサー側面の切り替えスイッチを「AUTO」に設定しておくだけで、機器側で最適な無線周波数帯を自動選択してくれるので、ユーザーはその存在を意識することなく快適な視聴環境が得られる。単純な技術のように聞こえるかもしれないが、菊地氏は「ノイズが発生したら空いている周波数帯へ切り替えるのでなく、最適な周波数帯を常時リアルタイムに選びながら音途切れなく切り替え続けるというシステムをつくるため、ソニーのワイヤレスオーディオ開発の専門チームと一緒に何度もフィールドテストを繰り返してきました」と語る。その開発にはやはり、並大抵ではない苦労が伴ったようだ。

なお、MDR-HW700DSのシステムでは、1台のプロセッサーに対して最大4台までのヘッドホンが増設できるので、家族皆でリアルな9.1chサラウンドの映画を同時に楽しむこともできる。リアルタイムチャンネルセレクションはプロセッサー側が空きチャンネルを自動選択しながらヘッドホンに信号を送信するので、全てのヘッドホンで音切れすることなく、快適なサラウンド体験が得られることも大きな魅力だ。

ユーザビリティや装着感も飛躍的にアップした

デジタル機器として細かなユーザビリティも向上している。USB充電に対応したこともその一例だ。菊地氏は「USBケーブルで充電できる機器が増えてきましたので、ソニーのデジタルサラウンドヘッドホンも手軽にバッテリーが充電できるよう改良を施しました。また前機種で対応できなかった、USB経由でヘッドホンに給電しながらのリスニングにも対応しています」と、使いやすさが高まった点をアピールする。なお内蔵バッテリーは約3時間のフル充電で、約12時間の連続視聴に対応している。

MDR-HW700DSのヘッドホン本体

本体メニューのオン・スクリーン・ディスプレイ表示(OSD)にも新しく対応した。これによりヘッドホン側のリモコンを操作しながら、エフェクトやマトリクスデコーダーの選択状態を、テレビなど本体を接続しているディスプレイの画面上にオーバーレイ表示できるようになって、使い勝手がぐんと高まった。なお、エフェクトやマトリクスデコーダーの切り替えはプロセッサー本体に配置されたボタンで選択することもできる。

さらに3系統のHDMI入力は4K映像のパススルーにも対応している(※注)。今はまだ4Kコンテンツが充実していないと言われているが、薄型テレビやプロジェクターなどホームシアター機器は着実に4K対応が進みつつある。将来の使い勝手を考えるならば、デジタルサラウンドヘッドホンも早くから4K対応であってほしい。こうした将来を見据えた技術アップデートに対しても、ひと足早い段階から取り込めるのも、エレクトロニクスの先端技術を常に追求し続けているソニーだからこそだ。
※4K映像は右記信号のパススルーに対応しています(3840×2160p 29.97/30Hz、3840×2160p 25Hz、3840×2160p 23.98/24Hz、4096x2160p 23.98/24Hz)。映像ソース機器側の出力信号仕様および映像表示機器側の入力信号仕様もあわせてご確認ください。

MDR-HW700DSのヘッドホン本体にも、ソニーならではの高音質化技術の数々を見つけることができる。

ドライバーはサラウンドヘッドホン専用にソニーが開発したもので、ネオジウムマグネット採用の大型50mm口径ドーム型ドライバーが搭載されている。ハウジングの外装にはレザー調のパーツが配置された。その狙いについて井出氏は「見た目の高級感が高まるだけでなく、本体に手や物が触れた時に発生するタッチノイズが抑えられる効果も得られることから採用しました」と説明する。

ヘッドバンドはMDR-DS7500に採用されていた、サスペンダーと呼ばれる2重に設けられた内側のヘッドバンドでかけ心地を調節する「フリーアジャスト機構」は、今回のモデルでは変更された。

MDR-HW700DSのヘッドホン本体

「フリーアジャスト機構については、ヒンジの長さ調整をしなくても良いので便利という声もいただいていましたが、反面一部のお客様から長時間着けているとわずかにヘッドバンドの圧迫感を感じることがあるというご意見もいただきました。MDR-HW700DSのデザインを決めていく段階で、軽量感のあるスタイリッシュなデザインを目指したいというコンセプトもあったため、今回はより通常のヘッドホンに近いスタイルに仕上げています」(菊地氏)

MDR-DS7500ではサスペンダーが本体の電源スイッチにもなっていたため、頭部に装着するだけで電源がONになる機能も好評を博していた。最新機種のMDR-HW700DSでもオートパワーON/OFFの機能を継承されている。ヘッドホンを装着する際に本体右側のハウジングがアーム側のスイッチに接触することで、自動で電源がONになる。ヘッドホンを脱いでから約5秒間そのまま置いておくと自動でパワーOFFになる機能も搭載されているので、電源の切り忘れも防ぐことができる。インターバルが5秒に設定されている理由は、本体を取り外した後でも、ヘッドホンのボタンをリモコン代わりにして、プロセッサーの電源操作や音場操作が行えるようにするためである。

イヤーパッドには36mm厚の低反撥ウレタン素材が使われており、視聴時に耳へかかる負担を軽減する。また音づくりの面では空気漏れが防げることで、タイトで量感のある低音を再現できるメリットも合わせて得られる。井出氏の説明によれば「イヤーパッドの外装素材の質感についても、長時間の装着時にも疲労感を感じさせないよう、しっとりとした柔らかい仕上げに改良されている」のだという。このようにMDR-HW700DSではヘッドホン本体の品質向上を実現するために、ソニーのヘッドホン製品全体の開発資産が惜しみなく投入されている。

MDR-HW700DSはソニーの最先端技術を詰め込んだ集大成だ

MDR-HW700DSに搭載されているシネマモードの音づくりを進めるため、井出氏はSPEのエンジニアたちのもとへ何度も試作機を持って訪ねてきたが、エンジニアたちの反響がいつもよりもさらに大きかったことが印象に残っているという。「最終製品のデモを終え、彼らに感想を求めたところ、まずはじめに“販売価格や発売時期を教えてほしい”と訊ねてくるエンジニアが多かったことがとても深く印象に残りました。この新製品を欲しい、使ってみたいという彼らの気持ちが強く、ストレートに伝わってきたことが、私にはとても嬉しく感じられました。MDR-HW700DSは一流のコンテンツクリエイターたちが満足するほど、ハイクオリティな製品に仕上がっている自信があります」と井出氏は胸を張る。

MDR-HW700DSはこれまでソニーが長い期間に渡って開発してきたデジタルサラウンドヘッドホンの集大成であると菊地氏は強調する。「通常のオーディオ用ヘッドホンよりも、サラウンドヘッドホンの開発には信号処理や電気通信技術のエキスパートなど多くのスタッフが関わるため、より大規模なプロジェクトチームで開発に携わることになります。ソニーの様々な開発部門、ならびに、SPE、SCEなどグループ会社のコンテンツクリエイターと直にコミュニケーションを重ねながら、ものづくりができることもソニーにしかない強みです。デジタルサラウンドヘッドホンには、紛れもなくソニーが現在持っている最先端の技術が全て詰め込まれています」

開発者の二人が語る通り、これほどまでに9.1chサラウンドを気軽に、かつ良い音で楽しめる製品はMDR-HW700DSをおいて他にないだろう。そのリアルで迫力あるサラウンドを一度でも体験すれば、我が家のシアタールームが映画館に早変わりする様が、立ち所に頭の中に浮かんでくるはずだ。

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商品情報

デジタルサラウンドヘッドホンシステム

MDR-HW700DS

世界初(※)9.1ch 3D VPT(Virtualphones Technology)が立体的なサラウンド音場を再現。映画などのコンテンツを大迫力で楽しめるデジタルサラウンドヘッドホンシステム

※ 民生用デジタルサラウンドヘッドホンシステムとして(2013年9月5日時点、ソニー調べ)

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