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ハイレゾの魅力を、いろいろな角度から、深く掘り下げる企画が続々。

尾崎豊「ALL TIME BEST」ハイレゾ配信記念特集 ハイレゾで尾崎豊が蘇る【第一章】マスターテープに残された声が蘇る

尾崎豊のベスト・アルバム『ALL TIME BEST』ハイレゾ版の配信が開始された。
このアルバムは、2013年に彼のデビュー30周年を記念してリリースされたもので、デビュー曲「15の夜」、デビュー・アルバムのタイトル・ナンバー「十七歳の地図」、永遠の代表曲「卒業」、ファンの誰もが愛して止まない「Forget-me-not」、
2014年8月16日から全国公開の映画『ホットロード』の主題歌「OH MY LITTLE GIRL」など、彼のキャリアを通してのベスト楽曲が網羅されている。
この作品がハイレゾ音源化され、より高音質になって再び世に出ることの意味はとてつもなく大きいはずだ。
そのマスタリング作業の現場を訪れ、エンジニアの鈴木浩二氏にお話を伺った。

鈴木 浩二
鈴木 浩二 レコーディング&マスタリングエンジニア
1985年にソニー・ミュージックスタジオのレコーディングエンジニアとして入社。数多くのレコーディングを手掛け、特にアコースティック楽器を中心とした作品で高い評価を得ている。95年からマスタリングも開始し、現在はチーフエンジニアとして、ポップス、ジャズ、クラシックの新譜からリマスタリングまで、幅広いジャンルの仕事をしている。日本プロ音楽録音賞において、最優秀賞5回、優秀賞2回を受賞。キャリア初期には、尾崎豊のレコーディングセッションにもアシスタント・エンジニアとして参加している。
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豊かなポテンシャルを利用して、新たな表現をしていく

──CDと比べてハイレゾ版の音が良いというのは、具体的にはどういうことを指すのでしょうか?

鈴木:
CDのフォーマットはサンプリング周波数が44.1kHzでビット数が16bitであるのに対して、『ALL TIME BEST』ハイレゾ版はサンプリング周波数が96kHzでビット数が24bitです。アナログ音源をデジタル化する際、サンプリング周波数が高いほど、高域の音まで記録することができるようになります。また、ビット数が高いほど精度が上がり、原音からより忠実に変換することが可能となります。96kHz/24bitのハイレゾ音源はCDの約3倍の情報量を持つので、高域の聴こえ方はもちろん、微細な音の変化や音の余韻といった部分での聴こえ方にもかなり違いが出てきますね。

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──それは、よりアナログ音源的な音になるということでしょうか?

鈴木:
アナログ音源と言ってもレコード盤を指すのか何を指すのかで違うと思いますが、よりマスターテープに近い状態の音を提供できるのは間違いないですね。

──エンジニアとしては、これまで以上にやりがいが出てくるのではないですか?

鈴木:
いえ、CDにはCDのやりがいがあるんです。今まで蓄積されてきたさまざまなマスタリングの手法があって、それらを駆使していろんなことができますから。ハイレゾは、それとはまた違う可能性のある新しいフォーマットが出てきたという感じです。エンジニアは常に、そのフォーマットの中で最大限の表現をしようとしているんですね。ですから、奥行きをもっと広げることができる、高域をもっときれいに伸ばせるといったハイレゾの持つ豊かなポテンシャルを利用して、新たな表現をしていく──それが大事だと考えています。

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マスターテープからハイレゾ音源が作られるまで

アナログ・マスターテープから、どういう機器を使い、どういう手順でマスタリング作業を行ってハイレゾ・データを作っていくのかを、鈴木氏に説明していただいた。ただし、CDとハイレゾとでは、デジタル・データ化されたときのフォーマットやメディアが違うだけで、一般的なマスタリング工程自体には大きな違いはない。

01
下準備
古いアナログ・テープは、テープの種類や保存状態によって、湿気を吸ってベタついてしまい、そのままではテープレコーダーで再生できない場合があるので、まずは専用のオーブン(恒温槽)に入れて、一定時間加熱処理を行い湿気を飛ばします。朝一番でおこなうこの作業から、マスタリングの工程が始まります。
02
マスターテープの再生
マスターテープの再生
次に、マスターテープをできる限り良い状態で再生します。 そのためには、マスターの作成された時代にマッチしたテープレコーダーをチョイスすることがまず必要です。 そして、テープに接する再生ヘッドの角度や、今回はテープが複数にまたがるので、音量や高域・低域のバランスを揃えるなど、さまざまな調整をしていきます。 とにかく、ここでどれだけマスターの持つポテンシャルを十分に発揮した良い再生ができるかが、すべての基本となるのです。
マスターテープの再生
03
イコライジング
イコライジング
テープレコーダーで再生された音は、まずアナログのイコライザーに通して、音色の調整をします。 テープ自体が経年変化によっていわゆる“鈍(なま)る”という状態になっていることがあるので、この段階で、音の元々持っていたクリアさを取り戻すためや、リマスタリングの趣旨に合わせたイコライジングを施すのです。
イコライジング
04
デジタル化
デジタル化
そのアナログ信号が、A/Dコンバーターによって96kHz/24bitのデジタル信号へと変換されます。 この段階で、もとはアナログ・テープに入っていたマスター音源が、ハイレゾのフォーマットに合ったデジタル・データになるわけです。
デジタル化
05
調整後、HDDに落とす
次にその信号は、レベル・コントロールを行うデジタル・エフェクターを通ります。そこでまた微調整をされ、ワークステーション(コンピューター)のハードディスクに落とされます。ここまでがマスタリングのひとつの流れで、だいたい1曲につき20〜30分ほどかかります。
最終的にはそれらを曲順に並び変え、曲間を調整し、全体のバランスと流れを考えアルバムとして完成させます。

尾崎さんと実際に仕事をしたときの気持ちや思いを出したかった

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──エンジニア的な観点から、尾崎さんの声の魅力はどこにあると思いますか?

鈴木:
エネルギー感ですね。魂から来る歌の叫びというか。
聴く人へストレートに向かってくる感じがすごく魅力的です。

──鈴木さんは、尾崎さんのレコーディングにもかかわっていらっしゃったんですね。

鈴木:
1985年のアルバム『壊れた扉から』でアシスタント・エンジニアを務めました。レコーダーを回して、実際に彼の歌を録音しています。じゃあ試しに1回歌ってみようかという段階から彼はもう本気モードで(笑)、その1回でOKが出るということもよくありました。

──アルバムの10曲目「Forget-me-not」は、どうしても歌詞を完成させられなくていったんスタジオを出た尾崎さんの戻りを待って、明け方に一発録音したという伝説がありますね。

鈴木:
スタジオでずっと待っていましたね。「できた!」と言って彼が歌詞を持って戻ってきたときには、時間は忘れましたが、もう日が昇って明るくなっていて……。そのときの彼の歌は本当にすごかったですね。あれは忘れられないです。

──今回のハイレゾ用のマスタリングに、実際に尾崎さんと仕事をしたときの経験を活かそうとはされましたか?

鈴木:
そのときのレコーディング現場での気持ちや思いみたいなものは、今でも自分の中に残っていますから、それをうまく出せたらな、というふうには思いましたね。

歌に込めた思いまで、生々しく伝えられる

ここで鈴木氏に、ハイレゾ音源対応ウォークマンR「NW-ZX1」とステレオヘッドホン「MDR-1RMK2」およびワイヤレススピーカー「SRS-X9」で、
マスタリングが終わったばかりの「I Love You」ハイレゾ音源を試聴していただいた。

──ご自身がマスタリングされたハイレゾ音源を聴いてみてのご感想は?

鈴木:
歌のニュアンス、繊細さがちゃんと出ていますね。あと、音の奥行きや広がり感も伝わっています。そういう意味では、こういう「I LOVE YOU」のような、もともと空間のある曲のほうが、ハイレゾ音源化されることによって、その広がり感がより伝わりますね。

──いま、実際に聴かせてもらって、ハイレゾ版では空間がある曲のニュアンスがより伝わりやすい、ということがすごくよくわかりました。

鈴木:
立体感や奥行き感、高域の伸び。バラード曲では、そういったものがかなりしっかりと感じられると思います。もちろんパンチのある曲でも、音の伸びはかなり感じられますし、低音から高音まで力強く迫力が出てきますね。

──マスターテープに残っている声こそが尾崎さんの本当の声にもっとも近いとすると、現時点において、それを甦らせるための最適なフォーマットがハイレゾだということは間違いないでしょうね。

鈴木:
そう思いますね。彼が歌に込めた思いまで、生々しく伝えられるんじゃないかな。今こうしてできあがったハイレゾ音源を聴いてみても、レコーディングで録った音だけでなく、その時に感じた自分自身の思いまでもリアルに甦ってきます。(ハイレゾは)マスターに入っている細かなニュアンスや空気感までもしっかりと伝わるようなフォーマットだな、という感覚をもっています。 ファンの皆さんにも、ぜひハイレゾ版の「I LOVE YOU」の最初の歌い出しを聴いてもらいたいですね。聴いてもらえばわかると思います。すごく良いですから。

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エンジニア・鈴木浩二氏は、新たなテクノロジーを取り入れながらも、スペックを追うのではなく、そのスペックを活かしてどれだけ新たな表現ができるかに挑戦している。振り返ってみると、アーティスト・尾崎豊も、上手く、小ぎれいに歌おうとするのではなく、強烈な魂の震えをどれだけストレートに表現できるかに賭けていた。1985年にともに仕事をしたふたりの“表現者”が、時を経た今、ハイレゾという可能性の中で再び出会った。その結果として、マスターテープに残された声が、サウンドが、空気が、思いが、熱さが、匂いが、手触りが、蘇る。『ALL TIME BEST』ハイレゾ版の持つ意味は、ここにあるのではないだろうか。