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ハイレゾの魅力を、いろいろな角度から、深く掘り下げる企画が続々。

スペシャルインタビュー 音楽評論家編 音楽評論家・小野島大が語る名盤とハイレゾの饗宴

洋邦のロックはもちろん、テクノを始めとするエレクトロニック・ミュージック、そして自らの琴線に触れたあらゆる音楽を深い洞察と共に語る音楽評論家の小野島大が、「mora」のハイレゾ音源を『HAP-S1』と『SS-HA1』で聴き込む。 アーティストからも深い信頼が寄せられるその耳と感性にハイレゾ化された名盤は何を訴えかけるのか? より鮮明となったアーティストの作品にかける想いと共に、その高音質の魅力についても語り尽くす。

小野島 大
小野島 大 プロフィール
音楽評論家。著書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)『音楽配信はどこへ向かう?』(インプレス)など。編著に『フィッシュマンズ全書』(小学館)『Disc Guide Series UK New Wave』(シンコーミュージック)など多数。各雑誌、WEBサイトに執筆。オーディオに関する著述も多い。音楽配信サイト「Music Unlimited」で、各年代毎の名曲を選曲したオススメプレイリスト「NEWSWAVEと、その時代」を連載・公開中。

試聴したハイレゾ名盤

名盤1 Tapestry / CAROLE KING

──まずは、'71年発表の不朽の名作『Tapestry/つづれおり』から聴いてみましょう。大仰なアレンジも音色もなく、まさにキャロル・キングの歌とピアノをフォーカスした珠玉のメロディーによって編まれた70年代を代表する傑作です。

小野島:
まず、圧縮音源は全体的に余裕がないというか、ボーカルやサウンドが狭いところに閉じ込められているような印象がします。声も全体的に後ろに引っ込んでいるように感じましたね。音楽を音楽として楽しむだけの豊かさはもちろんありますが、やっぱり圧縮音源のアラのように聴こえてきました。

──シンプルながらも奥行きと広がりを感じさせる音の印象でしたが、確かに圧縮音源で聴くとそのような窮屈な感じがしますね。ではハイレゾ音源ではいかがですか?

小野島:
ハイレゾはピアノの生き生きとした響きや、声に実在感があって前へ出てきてゆったりと歌いかけてくれているような感じが良いですね。当時のキャロル・キングの声が生々しくよみがえるようで、グッときました。

Tapestry / CAROLE KING
Tapestry
CAROLE KING
ハイレゾ|FLAC|96kHz/24bit
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名盤2 Celebration Day / Led Zeppelin

──続いてはレッド・ツェッペリンが'07年12月にロンドンの「ザ・O2アリーナ」で行なった一夜限りの再結成コンサートを収めた『Celebration Day/祭典の日(奇跡のライブ)』です。

小野島:
これは圧縮音源とハイレゾの差が、非常にわかりやすく、はっきりと出ますね。歓声の広がり方で会場の大きさが伝わってくるようです。ハイレゾ盤は「O2アリーナ」の広さを十二分に表現してくれています。オーディエンスの興奮、リアルな臨場感や、演奏のスピード感、音の立ち上がりの良さが前面に出てきています。

──年輪を重ねたロバート・プラントのボーカルはいかがでしたか?

小野島:
ボーカルに関しては、それほどの差は感じませんでした。スピーカーやプレーヤーといったハードを作り込んでいく過程で、ハイレゾの音質を良くしようとすればするほど当然のように圧縮音源も高音質に聴こえてくるでしょうから、これはその恩恵と言っていいかもしれませんね。しかし、故ジョン・ボーナムの息子であるジェイソン・ボーナムによるドラムのアンビエンスなどははっきりと違う。ここはやはりハイレゾで楽しみたいポイントですね。ライブ盤は臨場感の再現性も含めて、ハイレゾとの相性が良いように感じました。

Celebration Day / Led Zeppelin
Celebration Day
Led Zeppelin
ハイレゾ|FLAC|48kHz/24bit
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名盤3 On The Corner / Miles Davis

──マイルスのグループに在籍したハービー・ハンコックが再び呼び戻され、チック・コリアやマイケル・ヘンダーソンら多くの腕利きミュージシャンが参加した'72年発表の『オン・ザ・コーナー』は、ファンク色の強い作品としてロックやソウルのファンからも聴かれる名作です。

小野島:
まさにこの作品は当時のブラック・ミュージックの状況にリンクして、ジミ・ヘンドリックスやスライ&ザ・ファミリー・ストーンに通じているところがあります。それを理解してハイレゾ盤を聴くと、当時の混沌とした空気感が伝わってくるようですね。私が自宅で聴いているSACD盤と比べて、奥行きと広がりが出ていますし、分離感もすごくある。突き刺さるようなパーカッションの音が丸くなって、どすんどすんと聴こえるのは新鮮というか、新たな音のように感じることができました。ただ、そこは好みが分かれるところかもしれませんが、私は楽しく聴くことができましたね。

On The Corner / Miles Davis
On The Corner
Miles Davis
ハイレゾ|FLAC|96kHz/24bit
moraでチェック
名盤4 Thriller / Michael Jackson

──続いてはモダン・ジャズの帝王として知られるマイルス・デイヴィスもカヴァーした「ヒューマン・ネイチャー」を含む、80年代を代表する名盤アルバム、マイケル・ジャクソンの『スリラー』です。

小野島:
これも明確に差が出ますね。いや、本当に素晴らしい録音です。選りすぐりの演奏者とエンジニアを集め、マイクやケーブルのひとつひとつまで吟味して、どれだけの時間と労力、そして制作費がかかったんだろうと考えてしまうぐらい、素晴らしいサウンドです。冒頭のシンセの音の鮮度や、音場が広がっていく様子は、他のハイレゾ作品と比べても段違いのレベルと言えますね。誰が聴き比べても圧縮音源盤と違いがわかる、まさに名盤です。

──とても30年前の作品とは思えないみずみずしい音があふれ出ていますね。

小野島:
オーディオ機器の質を表現するのには最適な言葉ではありませんが、純粋に聴いていて楽しくなってくる。ハイレゾの後に圧縮音源を聴くと骨格標本みたいに骨組みだけを見せられているような痩せた印象を受けてしまいます。音が硬くて粗いですし、いちどハイレゾを聴いてしまうと圧縮音源は聴けないというくらいの美しさ。リファレンス作品としても最適だと思いますよ。

Thriller / Michael Jackson
Thriller
Michael Jackson
ハイレゾ|FLAC|176.4kHz/ 24bit
moraでチェック
名盤5 The Nightfly / Donald Fagen

──スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンが'82年に発表した初のソロ・アルバムであり、AORを代表する名作です。レコーディング・エンジニアでこの作品をリファレンスとして使っている方も多いと聞きます。

小野島:
もう説明する必要がないくらいの歴然とした差ですね。ほかのアーティストももちろんそうなんですが、ドナルド・フェイゲンは録音を芸術として捉えてすごく神経を注いで制作しているのは有名な話です。ハイレゾ化されるとその彼が思い描いたであろう音の風景がはっきりと奥まで見渡せる。聴く方ものんべんだらりと聴いているだけでは、その音の真髄を感じ取ることができない。その意味でハイレゾは最適なので、許される限りの良い音で聴いてほしいですね。

──各音のバランスや響きも完璧なまでに美しく伝わってきますね。

小野島:
ハードなロックとかだったら、音のひずみも味になって迫力が優先される。テクノのようなエレクトリックなダンス・ミュージックだったら、ハイレゾにする意味も問われてきます。しかし、ドナルド・フェイゲンのように生楽器の精密なアンサンブルが主となる音楽の場合は音質の良し悪しは最重要になってくる。マイケル・ジャクソンの場合は手間も金もかけたマスターテープに眠っている情報量をいかに引き出してくるかがポイントですが、ドナルド・フェイゲンはむしろそのポテンシャルを引き出すよりも、アーティストがやろうとしたことをどれだけ見せてくれるかだと思います。その点でハイレゾは最適と言えます。もちろんアナログ盤の時代の作品ですので、アナログ盤で聴くのが最良ではあるんですが、アナログ盤をきちんとした音で聴くのは調整するのもすごく難しいし、知識も必要。なので、手軽に良い音で聴けるハイレゾ盤をオススメしたいですね。

The Nightfly / Donald Fagen
The Nightfly
Donald Fagen
ハイレゾ|FLAC|48kHz/24bit
moraでチェック
名盤6 GRRR! / The Rolling Stones

──60年代の曲がハイレゾ化されるとどう聴こえるかも興味があります。ローリング・ストーンズの結成50周年を記念したベスト・アルバムから選んで聴いていただけますか。

小野島:
'69年のヒット曲「ホンキー・トンク・ウィメン」と'67年の「シーズ・ア・レインボー」を聴きましたが、これも感動的なまでに違いますね。音の重心、芯がしっかりと感じられる。ストーンズのようなロックは言ってみればダンス・ミュージック。踊る気になれるかどうかが評価のポイントだと思っています。曲の全体像がはっきりと感じられるハイレゾの音で流れてくれば、もう踊りまくるしかない。音質を磨き上げた『HAP-S1』と『SS-HA1』で聴いているので、圧縮音源でも決して悪くはないんですが、やはりもハイレゾを聴くとひ弱な感じがして物足りなくなってしまう。当時のみずみずしさがよみがえるようです

GRRR! / The Rolling Stones
GRRR!
(Deluxe Version)
The Rolling Stones
ハイレゾ|FLAC|44.1kHz/24bit
写真

──小野島さんは音楽配信に関する著書や連載をお持ちですが、ここ最近の音楽にまつわる環境やリスナーについてはどう捉えていらっしゃいますか?

小野島:
サブスクリプション型の音楽サービス「Music Unlimited」を始め、続々と新サービスが登場するなど、音楽への接触経路は以前よりもさらに多面的になってきています。今までPCやスマートフォンのスピーカーで聴いていた人も、より音楽を楽しめる環境が整うにつれて、そろそろネットワークプレーヤーなどのPCオーディオに関心が向けられてくるのではないでしょうか。そうしたタイミングでソニーと「mora」が一体となってハイレゾを推し進めようとしていることは歓迎すべきことです。

──「mora」によるハイレゾ盤のラインアップについてはいかがですか?

小野島:
予想していたよりもハイレゾ盤が多く出てきたなと個人的には感じましたね。その一方で新譜はまだまだ少ない。権利者やアーティストの意向もあるでしょうが、新譜が増えると若い人たちが良い音質に触れる機会も増えると思いますので、ぜひ今後は新譜の充実を望みたいですね。良い音で聴くことで、アーティストが音楽に込めた情熱や意図がよりはっきりと伝わってくる。その楽しみをぜひ知ってもらいたいですし、『HAP-S1』と『SS-HA1』は、そのきっかけにもなるはずです。『HAP-S1』にプリインされているジェイムス・テイラーやハービー・ハンコックなどのハイレゾ音源は、まさにハイレゾの魅力を伝えるにもってこいの音質になっていますので、まずこちらから聴いてみるのもいいと思います。スマートフォンやタブレットで操作ができるのもポイントですね。

写真

──これからハイレゾに興味を持って聴いてみようとしている方々へ、小野島さんなりのハイレゾの楽しみ方を教えていただけますか。

小野島:
ただ、ハイレゾになったからといって、曲が良く聴こえるわけではないですし、平凡な歌詞が鋭くなったり、下手なギターがうまく聴こえたりもしません。しかし、音楽の楽しみというのは上手い下手だけではない。音のない空間に込められた想いや、音の息遣いを感じたりするのも楽しみのひとつだと私は思うんです。ハイレゾの真骨頂というのは、まさにそこにあると思います。今までCD音質では感じ取ることができなかったニュアンスをいかに表現するか。デリケートな差ではありますが、その差こそが音楽ファンにとってはまさに醍醐味。それがはっきりと感じ取れるハイレゾは、音楽の新たな楽しみ方を提案してくれていると言っていいんじゃないでしょうか。