映画制作を支えるさまざまな仕事を訪ねて―フードコーディネーター編 キービジュアル

映画の中の美味しそうなお料理を食べてみたい・作ってみたいと思ったことはありませんか? その裏側には、フードコーディネーターという映画の中の「食」を支える仕事があります。

映画に登場する美味しそうな食事シーン。登場人物が食べているその料理を「食べてみたい!」「作ってみたい!」と食欲をそそられることもあれば、その料理を通して登場人物の関係性が描かれることもある、時にはセリフ(言葉)以上に感情や心情を伝えてくれることもあります。
そんな映画における食事シーンを支えるのが、フードコーディネーターというお仕事。そこで今回は話題作をはじめ数多くの映画で活躍するはらゆうこさんに、ご自身の会社のキッチンスタジオでお話しを伺いました。
映画を支えるさまざまな仕事を知って、映画をもっと楽しんでみませんか。

  • フードコーディネーター 
    はらゆうこ さん

    映画の料理監修は、TOKYOMER -走る緊急救命室 南海ミッション、フロントライン、かくかくしかじか、パリピ孔明、女神降臨、はたらく細胞、ふしぎ駄菓子屋 銭天堂、劇場版ドクターX、室井慎次 生き続ける者・敗れざる者、おいハンサム?、パレード、ゴールデンカムイ、翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜、ミステリと言う勿れ、ネメシス‐黄金螺旋の謎、ブラックナイトパレード、極主夫道ザ・シネマ、劇場版ラジエーションハウス、余命10年、RED、糸 など多数の作品でご活躍。

  • フードコーディネーター・はらゆうこ さん
  • 映画の料理監修は、TOKYOMER -走る緊急救命室 南海ミッション、フロントライン、かくかくしかじか、パリピ孔明、女神降臨、はたらく細胞、ふしぎ駄菓子屋 銭天堂、劇場版ドクターX、室井慎次 生き続ける者・敗れざる者、おいハンサム?、パレード、ゴールデンカムイ、翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜、ミステリと言う勿れ、ネメシス‐黄金螺旋の謎、ブラックナイトパレード、極主夫道ザ・シネマ、劇場版ラジエーションハウス、余命10年、RED、糸 など多数の作品でご活躍。

映画の料理に心惹かれるのは理由がある
美味しそうな料理シーンができるまで

フードコーディネーターという仕事

ーはらさん 「映画なのかドラマなのか、作品によって参加の仕方はいろいろですが、いずれにしても台本を読むことから始まります。台本に「朝ごはんを食べる」と書いてあったとして、どんなメニューなのか詳しく書かれていない場合は、登場人物の役柄やその場の状況、物語の流れからメニューを考えたり、監督が思い描いている料理があるときは話をうかがってメニューを提案したりします。すでに台本にどんな料理なのか書かれているときは、その料理の詳細を決めます。単に料理を準備するのではなく、作品や役を理解して、時には想像を膨らませて料理を作る、それも大事なフードコーディネーターの仕事です。

  • はらゆうこさんのポートレート
  • その後、撮影前の準備としては、プロデューサーや助監督、美術や装飾のスタッフと打合せをします。また、台本には準備稿と決定稿があり、脚本家が台本を執筆する過程で食事のシーンに関してメニューを考案することもあります」

    キッチンスタジオでの料理準備の様子

事前準備〜撮影現場では何をする?

ーはらさん 「料理シーン撮影の3日ぐらい前に買い出しなど(食材の)準備を始めます。前日に撮影当日のスケジュールの連絡があって、どのシーンを撮影するのか、どのくらい用意するのか、撮影スタッフから最終的な指示が来ますが、いろいろなパターンを想定して準備することも大事ですね。というのも、1シーンを撮るにしても様々な角度から撮影するので、俳優さんが同じシーンを繰り返し演じるように、料理もその数だけ必要になります。3カット撮るということは、同じものが3皿必要になるということですね。さらに、料理を作るところから撮るのか、盛り付け後を使うのか、実際に俳優が食べるのか、当日に変更になることもあるので、どんな変更にも対応できるようにしておきます。撮影当日は、撮影開始の2〜3時間前にスタジオやロケ地に入って準備をして、本番に備えます」

●フードコーディネーターの、映画のお仕事での流れ(一例)

映画におけるフードコーディネーターの仕事の流れ(打合せ/買い出し/仕込み/撮影当日準備/本番対応 などの図)

作品によっては、原作に登場する料理を再現して欲しいというリクエストがあったり、過酷なロケのなか準備をしなくてはならなかったり、対応力もフードコーディネーターには欠かせません。

  • ーはらさん 「たとえば、『ゴールデンカムイ』のような漫画原作ものは、どれだけ原作に寄せられるかが課題としてありますし、物語の舞台は明治末期の北海道と樺太なので、北海道の大自然のなかでの撮影もありました。主にロケ撮影だったので、ロケ現場でどうやって準備するのかなどなかなか大変な作品でしたね。ほかにも、『おいハンサム!!』の映画版では、家族5人それぞれ朝食の目玉焼きの焼き方が違ったり、オムライスの焼き方にこだわりがあったり、監督が目指すものができるまで想像以上に時間がかかることも。また別作品では、ジブリ作品が好きな監督から、ハムが乗ったラーメンを再現してほしいとリクエストされたこともありました(笑)」

  • ロケ現場での料理準備の様子

物語や登場人物を理解するために──

ーはらさん 「まだ映画撮影現場の経験が浅かった頃に味わった苦い経験をきっかけに、作品のなかのどういう人(役)が作っているのかを考えるようになりました。ある撮影でカレーを用意したとき、綺麗に盛り付けて出したら、出演している女優さんに「台本を読んでいますか?」と聞かれて、その時は何を言われているのか理解できなかったんです。その女優さんが演じた役は団地で暮らしている設定で、相手にたくさん食べてほしいという気持ちで演じているから美しく盛らないでほしいということでした。それ以降は、キャラクターや設定について、可能な限り情報を集めて反映するようにしています。買ってきたコロッケをどう並べるのかにしても、役や設定によってお皿で出すかパックのまま出すかということですね」

「できない」と言わずに、別の案を出す

ーはらさん 「できたてが美味しいのは分かっていても、撮影現場は時間勝負なので、料理で待たせないよう余裕を持って仕上げておきます。そして、温め直して湯気を出しますが、俳優が口にする時に熱すぎないように、でも美味しく見えるように、温めるタイミングも計算しています。食べる人(役)が1人から全員に変更になるとか、予定になかったけどお味噌汁を追加してほしいとか、現場で突然のリクエストもあります。心掛けているのは、「できない」と言わないこと。味噌はないけれどコンソメスープは可能ですなど、臨機応変に対応するようにしています。

  • 料理を作る過程を俳優が実際にやりながら撮る場合は、クランクイン前にご本人と一緒に料理の練習をすることもありますね。そういう場合も、セリフを言いながら料理をするのかどうか監督に確認をしながら、演じるうえで料理ができるだけ負担にならないように、また何かアイデアを求められた時に提案できるよう準備もしています」

  • 撮影現場で使用する調理器具の一例

    撮影現場で活躍する道具たち(一例)中には調理器具とは思えないものも

フードコーディネーターという
仕事のやり甲斐

  • ーはらさん 「毎回、撮影前は緊張しますが、いざ撮影が始まると悔いを残さないようにあらゆることに気を配るので、自然と緊張はなくなっていますね。これまでの撮影で気づいたことを参考にしながら、もう少し湯気を出せるかな、もう少し早いタイミングで出せたらメイクさんの邪魔にならないかなと、自分のなかで小さな目標をいくつも立てて、それをクリアしていく、そういうプロセスも好きです。「カット」がかかっても俳優さんが料理を食べ続けていたり、撮影を終えた料理を昼食として食べようかなと言ってもらえたりすると嬉しいですよね。料理を始めたのは小学生の頃で、家族が「美味しい」と言ってくれるのが嬉しくて、何より楽しかった。フードコーディネーターという仕事も同じです。試行錯誤しながらの準備も含めて、映像の中の料理を作ることが、やっぱりすごく楽しいし好きなんです」

  • 撮影現場で料理を提供する場面

映画『余命10年』に登場する
ポトフに込めたもの

2022年公開の映画『余命10年』も、はらさんが料理を担当。何とも美味しそうなポトフが登場します。単に「美味しそう」とそそられるだけでなく、ポトフが家族の温かさの象徴として映し出されます。小松菜奈さんの演じる主人公・茉莉(まつり)は、数万人に1人という不治の病に冒された女性で、そんな彼女の身体をいたわる料理のひとつとして、はらさんはポトフを選びました。

  • ーはらさん 「『余命10年』は少しイレギュラーで、撮影の途中から参加しました。もともと撮影スタッフで対応されていましたが、撮影が進むなかで、監督から料理についての要望があり、おせちのシーン、お弁当のシーン、お母さんが作っている料理のシーンのご相談をいただきました。ポトフのシーンは、お鍋から湯気が出る、家庭的なお母さんの手料理ということでポトフになったと記憶しています。監督は湯気とか見た目にとてもこだわる方で、すごいなと思ったのは、登場人物ひとりひとりがどんな人生を歩んできたのか、キャラクターの人生が書かれたシートが用意されていたこと。

  • 映画『余命10年』のイメージ
  • このキャラクター、この家族ならどんな料理になるだろうかと考えて、たどり着いたのがポトフでした。悩んだのは、ベーコンを入れるかどうか。主人公の茉莉ちゃんは病気を抱えているので、減塩を考えるとベーコンは適切ではないのですが、美味しそうに見えることも映画として重要で……。ポトフは作っているシーンのみで食べるシーンはなかったのですが、きっと茉莉ちゃんはお野菜を食べるだろうし、家族はベーコンがあった方がいいだろうと。家族で一緒のものを食べる、茉莉ちゃんだけ別にしないことも考えて決めました」

  • 映画『余命10年』のイメージ

映画のなかに登場する料理を考えたり作ったりする、フードコーディネーターという仕事を知ることで、その料理にはどんな意味があるのか、映画の理解がより深くなるのではないでしょうか。

〈映画ごはんを再現〉映画に登場したポトフのレシピや裏話

映画『余命10年』で登場したポトフを、はらゆうこさんに再現していただきました。お料理をしながら、フードコーディネーターとしてのこだわりや、映画撮影現場での監督とのやりとり、ポトフの裏話などもお話しいただきました。

動画のテキスト版はこちら

材料(4人分)

にんじん 1本 (A)
玉ねぎ 1個 800〜1,000㎖
キャベツ 1/4株 コンソメ(顆粒) 大さじ1
じゃがいも 3個
ベーコン 約200g ローリエ 1枚
オリーブオイル 適量
粗びき黒こしょう 少々
にんじん 1本
玉ねぎ 1個
キャベツ 1/4株
じゃがいも 3個
ベーコン 約200g
オリーブオイル 適量
(A)
800〜1,000㎖
コンソメ(顆粒) 大さじ1
ローリエ 1枚
粗びき黒こしょう 少々

作り方

1
にんじんは皮をむき縦半分にし、さらに3等分にする。玉ねぎは8等分のくし切りにする。キャベツは3等分にし、じゃがいもは皮をむき4等分にする。ベーコンは好みの大きさに切る。
2
鍋にオリーブオイルを入れて熱したらベーコンを入れて焼く。
3
2
にじゃがいも・にんじん・玉ねぎ・(A)・ローリエを加えて煮込む。
4
15〜20分煮てじゃがいもが柔らかくなったらキャベツを加えてさらに煮て火を止める。
5
器に盛りつけ、好みで粗びき黒こしょうをふる。

〜はらゆうこさんが料理監修した映画〜

映画『余命10年』

  • 映画『余命10年』ジャケット画像
  • 主人公は、茉莉(小松菜奈)。二十歳のときに数万人に一人という難病を発症し、余命10年であることを知った茉莉は、生きることに執着しない、恋もしないと決めて生きていましたが、同窓会で和人(坂口健太郎)と再会したのをきっかけに、急接近します。そして、病気を隠して和人との時を重ね……。限られた時間を精一杯生きようとする茉莉と、彼女と出会って運命を変えていく和人のラブストーリーです。
    この映画に登場するポトフのシーンは、映画後半、茉莉がある決断をして絶望を抱えて帰宅したシーン。母親がポトフを用意して待ってくれていました。今にも壊れそうな茉莉の心を家族の温もりが包み込むような、家族の温かさをポトフが際立たせています。

    ブルーレイ&DVD発売元/販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
    権利元:ワーナー ブラザース ジャパン合同会社  
    © 2022映画「余命10年」製作委員会

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料理に注目しながら
ブラビアで映画を楽しみませんか

番外編

フードコーディネーターという仕事を知ると、美味しい料理が出てくる映画も観たくなりませんか? というわけで、はらさんに「この映画に登場する料理を再現してほしい!」と思う3本選んでみました。

シェフ 三ツ星フードトラック始めました

シェフ 三ツ星フードトラック始めました

  • 映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』の劇中料理イメージ
  • シェフ 三ツ星フードトラック始めました

    口うるさいオーナーや自分の料理を酷評する評論家とケンカして店を辞めてしまった一流レストランの元料理長カールが、キューバサンドイッチの移動販売を始める物語です。

  • キューバサンドイッチはもちろん「食べたい!」とお腹が鳴りますが、カールが息子のために作る3種のチーズを使ったクロックムッシュも美味しそう。お手軽メニューだけれど一流シェフが作ると絶品料理になる。調理シーンに見入ってしまいます。

  • クロックムッシュのイメージ写真(映画のシーンではありません)

    クロックムッシュのイメージ写真
    ※映画のシーン画像ではありません

© 2014 Sous Chef, LLC. All Rights Reserved.

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ジュリー&ジュリア

ジュリー&ジュリア

  • 映画『ジュリー&ジュリア』の料理シーンイメージ
  • ジュリー&ジュリア

    29歳のOLジュリーが人生を変えるために挑んだのは料理ブログでした。ジュリア・チャイルドが書いた料理本を手本に、王道のフランス料理524のレシピを365日かけて作ってブログにアップする!そのアイデアを思いついたときに食べていたのがトマトブルスケッタでした。

  • この映画では2つの時代の女性たちの料理の挑戦──ジュリーのレシピ挑戦の日々と、ジュリアのフランス料理本を出すまでが描かれます。

  • トマトのブルスケッタのイメージ写真(映画のシーンではありません)

    ブルスケッタのイメージ写真
    ※映画のシーン画像ではありません

© 2009 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

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若草物語(1994年の映画)

若草物語(1994年の映画)

  • 映画『若草物語(1994年)』のイメージ
  • 若草物語(1994年の映画)

    原作は、幾度となく映画やドラマとして映像化されてるルイザ・メイ・オルコットのベストセラー小説。メグ、ジョー、ベス、エイミーの四姉妹がたくましく生きていく姿を描いた不朽の名作です。クリスマスの日、食卓に並ぶ料理のなかにソーセージとリンゴのオーブン焼きがあります。

  • 映画のなかで映し出されるのはほんの一瞬ですが、「奇跡の料理よ」というセリフに「食べてみたい!」とそそられる、想像を掻き立てられる料理です。

  • ソーセージとリンゴのオーブン焼きのイメージ写真(映画のシーンではありません)

    ソーセージとリンゴの
    オーブン焼きのイメージ写真
    ※映画のシーン画像ではありません

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