商品情報・ストアデジタル一眼カメラ α α Universe

映像ディレクター
藤代雄一朗
SIDE STORY

飽くなき「好奇心」と「探求心」で実践のなかで
研鑽をつむMV監督
―S-LogとLUTのテクニックをより身近に―

α Universe editorial team

―α7Sを購入する際、高感度やHS(ハイスピード)ではなく、S-Logに魅かれてのことだったと伺いました。
昨年の今頃、ちょうど水曜日のカンパネラの「西玉夫」のMVを撮る一週間前にα7Sを購入しました。高感度の話題で盛り上がっていたこともすごく魅力で、さらにα7sのS-Log2で撮られている映像が動画共有サイト「Vimeo」にアップされていて、映像がとても綺麗だったので、自分も撮ってみたいと思いました。買ったばかりの頃は、カラコレのできる幅が広い一方、調整が難しく苦戦しました(笑)。現在はPremiere Pro CCの中に入っているLumetriを使用してカラコレを行っていますが、当時はFinalCutProXを使用していました。LUTの存在を知らなかったので、カラー補正のバーやトーンカーブで自分なりに調整しながら編集しました。

―MVでは必ずひとつはギミックを入れてつくるそうですね。この「西玉夫」はどうでしたか?
体がグニョンと曲がる箇所が出てくるのですが、これはSlitScanと呼ばれる方法です。すでによく使用される手法ですが、自分の技術向上のためにも、あえて作り方がわからないギミックを毎回取り入れてMVを作るようにしています。画面を細かく刻んで再生スピードを、上の方は早く、一秒後の映像を細かく刻み、時間を少しずつ分けると映像上は進んでいるのですが、上半身が先に進み、下半身が後からついてくる時間の歪みができます。これは「After Effect」で編集しました。

つばさレコーズ 水曜日のカンパネラ「西玉夫」

監督+撮影=藤代雄一朗 スタイリスト=田浦幸司 ヘアメイク=今村友美

―なるほど。ほぼ確実にLogを使って編集するんですね。
S-Log2の場合は露出を最適にして撮影できる必要があり、暗すぎたり明るすぎるとノイズやバンディングが出やすいです。そのため場合によってはS-Log2を使用しないでRec.709で撮影したほうが良い結果が得られるケースがあるようで、自分でも少し研究しようと思っています。また、S-Log2はISOが3200からになるので、NDフィルターを常備して明るさを抑えられるようにしています。

―今はソニーのLUTを当ててから微調整するような感じなのでしょうか?
もともと、LUTそのものに抵抗感がありました。インスタグラムのフィルターのようなイメージを持っていたので、使用するとかえって自分の色にならないのではないかと思っていました。しかし最近ソニーのサイトからダウンロードできるS-Log用のLUTの存在を知り、実際に使用してみると「これは楽だな」と感じました。具体的にいうと、ソニーの提供しているLUTはトーンカーブを触る前の下準備をしてくれるLUTで、自分だけの技術ではできなかった明快な画作りまでを担ってくれて、あとは自分の色の方向性へ調整するだけで済むようになりました。以前のように最初からトーンカーブのみでカラコレしていると画が眠たい印象になってしまったのですが、はじめにソニーのLUTをあてるととても綺麗に仕上がります。

―昼間はむしろ減光させてNDフィルターをかけるとのことですが、高感度は使用しますか?
ライブステージの裏側を撮るときには、真っ暗なのにちゃんと人物が撮影できるので多用しています。ノイズが出ることよりも絵を逃さないことの方が重要なので、気にせず感度を上げて撮影します。S-Log2で撮影する際には、モニターで見てちょっと明るめに撮るようにしています。暗めで撮影してしまうと、後で明度を上げたときにノイズが気になることがあったので、基本は「ちょっと明るいかな」と思うレベルで撮るようにしています。

―ソニーのLUTは「LC709」「LC709TYPE-A」「S-Log2 709」「Cine+709」の4種類がありますが、普段使われているのはどれですか?
「SLog2Gamut_To_LC-709TypeA」をまずセットしてみて、色がきつすぎた場合は「SLog2SGamut_To_SLog2-709」を選択しています。まずはこのソニーのLUTを当ててから、自分好みの色に寄せていくようにトーンカーブを使ってカラコレを行なっています。

―全体を調整する方法として、複数カットを同時に選択してLUTをかけ、トーンをさわっても統一性が出るものなのでしょうか。
ソニーのLUTは、カラコレの前段階として色を整えてくれるLUTなので、まずはシーケンスに並べた素材全体に同じLUTを当てています。その後で、各カットひとつずつトーンカーブで色の調整をしていきます。これまでも各カットごとにカラコレをしていたので手間は変わらないのですが、色の再現度を容易にするLUTを使うことで、すごく楽になりました。

―波形やモールス、ゼブラなど、露出を合わせられるのはα7Sの機種にはないのですが、それ以降の機種からは画面上で合わせられるようになっています。シャッタースピードなどは今までの経験で合わせているのでしょうか?
モニターの見た目上だけでやっています。しかし、モニターだけでは判断できなかったことがあったので、最近は外部モニターを購入しようと思っています。もう少し大きな画面でLUTをあてた状態で見られるようにしたいと思っています。

―S-Log2を使わない画やLUTなど、日々研究されているんですね。
もっと研究されている方はたくさんいると思うのですが、自分なりに綺麗に撮れるようになりたいので日々調べて追求しています。個人的には、ディレクターとして演出の面白さと同じくらい、自分でカメラを回して綺麗な画が撮れた時の喜びも大事にしています。それが仕事をしているなかでの「楽しさ」の大部分を占めているので、カメラの技術を上げたいと常に思っています。

―最後にMVを撮るためのいつもの機材を見せていただけますか?
ライブ撮影の際は、カメラ以外の物で持って行くのはほぼこれらのみです。ジンバルも使う場合がありますが、機動力や適応力を優先したいのでなるべく少ない装備で撮影できるようにしています。基本的には、スライダーを装着した三脚にカメラをセットし、これらでできる範囲のことしかしていません。この装備をしておけば、レールを敷いて撮影したような実景を自分ひとりで撮れますし、手持ちにも切り替えられる。バッテリーの保ちに不安があるので、4つ以上は常備しています。予備バッテリーを撮影に忘れてしまって現地で慌てて買ったこともありましたので、バッテリーはたくさん持っています(笑)。

ふじしろ・ゆういちろう 1984年東京生まれ 水曜日のカンパネラのMVをきっかけに映像業界へ。音楽と言葉のリズムカルな調和を演出の核としている。2016年DRAWING AND MANUALに参加。

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