第1回「THE NEW CREATORS」
表彰式・交流会リポート

α Universe editorial team

2025年7月26日(土)にソニーマーケティング本社で行われた「第1回THE NEW CREATORS」の表彰式。写真部門・映像部門それぞれでグランプリ、優秀賞、入賞、佳作を受賞した方々が参加し、表彰状やトロフィーを授与。審査員からのメッセージなども伝えられ、表彰式の後は交流会も行われました。ここでは表彰式・交流会の様子をリポート。グランプリ受賞者の2名に受賞の喜びや作品に対する思いなどもお聞きします。

●「THE NEW CREATORS」とは?ソニーのPurpose(存在意義)である「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」に則り、ソニー関連各社がその想いに共鳴した新しい才能を見出し、クリエイターと“感動”の未来を共創していく「写真と映像のアワード」。年齢や経験、撮影機材に制限のないオープン形式で写真作品 の3部門、映像作品の 3部門、計 6部門を設け、幅広い作品を募集。第一回THE NEW CREATORSには多数の作品が寄せられ、4名の審査員による厳正な審査の結果、グランプリを含む各賞が決定した。受賞作品はこちらhttps://www.sony.jp/camera/the_new_creators/winners01/

光による華やかな演出で表彰式がスタート

アワードのイメージカラーであるピンクとブルーの光の演出で、華やかにスタートした表彰式。まずは主催であるソニーを代表し、ソニーマーケティング株式会社 執行役員副社長の中川勝利が壇上に。このアワードへの思いと、クリエイターの皆さんへの感謝を伝えます。

ソニーマーケティング株式会社 執行役員副社長 中川勝利

その後、写真作品の審査員を務めた石川直樹氏と蜷川実花氏、映像作品の審査員を務めた上田慎一郎氏と大喜多正毅氏が紹介され、いよいよ表彰式の開幕です。

写真作品・映像作品のグランプリを表彰。受賞者が語る作品への思い

まずは写真作品のグランプリからの表彰。スポットライトで会場がきらびやかに演出され、受賞者名、作品タイトルを発表。ステージ上の大スクリーンには受賞作品が映し出されます。そして、グランプリを受賞した花田智浩さんがステージに登壇し、審査員の石川氏からトロフィーと表彰状のほか、副賞のフルサイズミラーレスカメラ『α7R V』が手渡されました。

花田さんは『時間の交差 海岸砂湯』という作品を自由部門に応募し、グランプリを獲得。ステージ上では、受賞の喜びや作品制作時の葛藤などを語りました。

花田智浩氏

「この作品を制作しようと思ったのは、大分県別府市がアーティストやクリエイターを支援するために居住・制作の場を提供する『清島アパート』に参加した2022年のことです。その時に温泉は 50年前の雨水であることを知りました。つまり、雨水が大地に染み込み、地熱によって温められて温泉になるという過程を知った時に、時を感じるような作品を制作したいと思ったのです。しかし2022年時点では、別府という土地を取り上げるのはあまりにもベタすぎるのではないか、50年前の写真を使った作品表現はいかがものか、といろいろな思いが交錯しました。しかし、2024年に別府市が100周年を迎えた時、100年前の写真を使って過去と現在の比較する意義を見出すことができ、作品制作に取り組むことになりました。制作にあたり、写真や絵はがきを貸していただいたり、作品で活用した温泉染めを教えていただいたりと、別府の人たちにはたくさん助けていただきました。その結果グランプリをいただくことができたので、僕 1人では成し得なかったと思っています」続いては、映像作品グランプリを表彰。受賞した河合ひかるさんが登壇し、審査員からトロフィーと表彰状、副賞のシネマカメラ『FX3』が贈られました。

河合さんは『親愛なる声へ』という作品をドキュメンタリー部門に応募。マイクを渡されると「この場に来てもまだ実感が湧かない」と話す河合さん。続けてご自身の生い立ちや作品に込めた思いなどを話します。

河合ひかる氏

「この作品は、祖父に感謝の気持ちを伝えるためにつくったセルフドキュメンタリーです。私の母は中国の人なので家族は全員中国に住んでいますが、私は母と共に日本で育ちました。そんなルーツがありながらも、いろいろな理由から10代の頃はなかなか自身のアイデンティティーと向き合うことができず、中国語をまったく勉強しませんでした。そのため話すこともできません。しかし、祖父がコロナに罹患してしまい危篤状態になったと母に聞かされた時、『一度も会話をせずに大好きだった祖父と別れてしまうのは絶対にイヤだ』と思ったんです。そこから中国語を猛勉強して祖父に手紙を書き始めましたが、手紙を書き上げる前に祖父は亡くなってしまいました。その後、中国語を勉強する中で、不思議な体験があったんです。普通、知らない言語を勉強した時は上手に発音できないし、聞いても耳に入ってこないものですが、教本に付属していたCDを再生したら馴染み深い家族の声で再生されたんです。『家族はあの時、私にこんな言葉をかけてくれていたんだ』と、単語を口にするたびに家族との思い出が蘇ってきました。でも、私は悲しいぐらい中国語の発音が上手にできない。このギャップを何か形にできないかと思い、この作品の制作に着手しました。そんなプライベートな作品をこうして多くの方に見ていただき、評価をいただけたことで、自分の中の小さな物語が大きな物語へと歩み出している気がします」

写真作品の優秀賞・入賞・佳作を表彰。審査員のコメントも披露

続いては写真作品の表彰です。まずは優秀賞を受賞したsuzuki takuyaさん、渡辺航さんがステージに上がり、それぞれに審査員から表彰状とトロフィーを授与。

左:渡辺航氏 右:suzuki takuya氏

鈴木さんからは、自身の離婚経験が作品制作のきっかけとなったことや撮影に協力してくれたシングルマザーへの感謝の思いが語られ、渡辺さんからはフィルムで多重露光した作品であることや、最初は失敗作と思ったものの見返してみるといい作品だと感じたことが伝えられました。

小寺照哉氏

佳作受賞のみなさん

その後、入賞の受賞者、佳作の受賞者も順に登壇し、審査員から表彰状やお花を贈呈。写真作品の表彰が終わったところで、審査員を務めた石川直樹さんから受賞者にメッセージが贈られました。

写真作品の審査員を務めた石川直樹氏

「写真は『何を撮るのか』よりも『なぜ撮るのか』という思いが強いほど作品としての強度が出てくるものです。今回のアワードでも、思いが強い人たちが選ばれていると感じます。写真の場合は孤独に制作を続けているため、こういった賞をいただくことで『このまま続けていいんだ』と自信に繋がった人も多いでしょう。制作への後押しにもなっていると思うので、これからもいい作品をたくさん撮り続けて欲しいと思います」

当日、都合により欠席だった蜷川実花さんからも受賞した皆さんにメッセージが届きました。「たくさんの作品の中から選ばれたことは本当にすごいこと。これを糧にどんどん進んでいってほしいと思います。私も公募展での受賞をきっかけにデビューしているのでよくわかりますが、これはスタート地点です。どう進むかは自分自身にかかっています。受賞したことを自信に繋げて、これからも作品をつくり続けてください」

映像作品の各賞を表彰。審査員からは審査の難しさが語られる

ここからは映像作品各賞の表彰です。まずは優秀賞を受賞した矼(いしばし)由之輔さん、上田雄太さんがステージに登壇し、審査員からトロフィーと表彰状が贈られます。

左:上田雄太氏 右:矼由之輔氏

矼さんからは、撮影させていただいた作家・山田珠子さんへの感謝の気持ちと、細々と一人で活動している作家たちにスポットが当たる活動を続けていきたいという思いが、上田さんからは映像制作を通して生きていることの素晴らしさを伝え続けたいという創作意欲が語られました。

左:浪瀬聡太氏 右:小崎愛美理氏

佳作受賞のみなさん

続いて入賞と佳作の表彰が行われ、ステージ上で表彰状やお花を授与。さらに、映像作品の審査員を務めたお二人が受賞者に向けてメッセージを贈ります。まずは上田氏がマイクの前へ。

映像作品の審査員を務めた上田慎一郎氏

「どの部門もいろいろな作品があり、同列に審査するのは本当に難しかった。そんな中、自分が基準としたのは『俺にはつくれねぇな』という部分です。つまり、その人にしかつくれない独創性があるかどうか、ということ。グランプリと優秀賞は、どれも特定の個人にフォーカスしてつくられた作品でした。私が大好きな映画監督、マーティン・スコセッシの言葉に『最も個人的なことが最も独創的である』というのがあります。特定の個人にフォーカスを当てて描いているからこそ誰も真似できない作品なのだと思いましたし、個人的に興味があるものを撮るだけでこんなに面白いものができるんだと改めて学ばせていただきました」続いて大喜多氏も審査の難しさを語ります。

映像作品の審査員を務めた大喜多正毅氏

「今回はオープン形式での公募だったためいろいろな作品が集まり、どう比べればいいのか僕もかなり悩みました。作品に正解はなく、良い・悪いと判断できるものでもないので、僕は何の情報も入れずに作品を観て、一番心が動いた作品を評価することにしました。僕はミュージックビデオやライブ映像など、音楽系の映像をつくることが多いので、音に対してはとても気を遣っています。グランプリ作品は、中国語と映像がバラバラな状態で作品が始まりますが、後半でグッとリアルになり鳥肌が立ちました。彼女の中でもバラバラだった像がひとつになったんだなと強く感じられたのです。グランプリ以外の作品も技術的にレベルが高く、皆さん本当に素晴らしいと思います。ここからは、どれだけ続けていけるかが重要です。最近は映像もAIの時代になりつつありますが、人の心に届く映像は、やはり人が映っていることが重要だと思います。今後もぜひ人が映っている作品をつくり続けてください」最後にグランプリ、優秀賞、入賞の受賞者へ、ソニーならではの特別な体験ができる、さまざまな特典が紹介されました。ソニーメイジングギャラリー銀座での作品展示、映画撮影現場の見学、ミュージックビデオなどの撮影体験などがその一例。受賞者の皆さんの刺激になり、よりクリエイティブな作品制作ができるような特典が目白押しです。さらに、第二回「THE NEW CREATORS」の募集を2025年 11月中旬から開始することが発表され、表彰式は幕を閉じました。

その後は会場を移し、交流会を実施。軽食とドリンクが用意され、立食スタイルで行われた交流会。受賞者、審査員、メディア関係者、ソニーの関係者が自由に移動しながら交流を図りました。会場は和気あいあいとした雰囲気で、審査員が作品について受賞者に質問をしたり、メディア関係者と受賞者が名刺交換をしたりと、賑やかに進行。多くのテーブルに人の輪ができ、会話に花を咲かせていました。ふだんは接点がない方と交流する、有意義な時間になったようです。

グランプリ受賞者に聞く、受賞の喜びと今後の展望

ここからは、写真作品・映像作品でグランプリを受賞した、花田智浩さんと河合ひかるさんにインタビュー。受賞した率直な気持ちや今後の展望などをお聞きしました。――グランプリを受賞した、今の気持ちを聞かせてください。

花田:率直にうれしいです。写真作品での受賞は初めてでしたし、しかもグランプリということでとてもうれしく思います。この作品は自分 1人の力ではなく、別府の人達にすごく助けてもらって制作できたものです。今回のグランプリ受賞は別府の人たちもとても喜んでくれたので、それが何より良かったなと思います。

河合:正直、「信じられない」という感じです。私が制作する作品は実験映像など、自分のアイデンティティーや体験を軸としたプライベートな作品なので、とてもチャレンジングだと感じています。ですから、このような場で発表した時、皆さんにどう思われるのか不安を抱きながら制作していました。今回の作品を評価いただいたことで、自分の表現が「個人的な物語」から「開かれた物語」になる可能性を感じましたし、私の作品が多くの人に届いたことが今も信じられません。今は、私の体験が皆さんの心に少しでも響いたのかな、とうれしさを噛みしめています。――この作品で表現したかったこと、つくろうと思ったきっかけは?花田:別府市が100周年を迎え、100年前の絵はがきと現在を比較する意味が出てきたことが制作に踏み出すきっかけになりました。調べてみると100年前とはずいぶん変わっていることがわかったんです。車道の規模も大きくなり、なくなってしまったものもたくさんあって。そこから「過去があったからこそ現在がある」「現在があるからこそ未来がある」と気づき、「今、何ができるのか」を伝えることができれば、と思いました。

河合:私は10代から油絵を始め、20代は美大・芸大で表現活動を続けてきたので、心が動いた時は形に残さずにはいられません。祖父は亡くなってしまったので、もう声を直接届けることはできませんが、映像として形にすることが自分の気持ちを昇華するプロセスでもあった気がします。この作品をつくることで「初めて身内が亡くなる」という心が動いた形跡を残せたのではないかと思います。――どんなクリエイターになりたいか、どのような活動を進めていきたいか、今後の展望を聞かせてください。花田:正直、写真を販売して生活するのはかなり難しい世の中です。だからこそ国内外で活躍して写真を買ってくれる人の母数を増やしたい、という思いがあります。さらに、「写真作品だけでは終わりたくない」という思いもあります。写真作品の表現というのは、写真を撮って展示して終わりと思われる事が多いと思うのですが、インスタレーションにも力を入れて、写真家という枠組みには留まらずにアーティストとして活動していきたいという思いが強いです。

河合:このコンペティションで掲げている「誰かの心を、震わせたい」という言葉が私にとってもキーワードになっています。以前、私と同じような生い立ちやアイデンティティーを持っているお客様が私の作品を観て、泣いて喜んでくださったり、「つくってくれてありがとう」と声を掛けてくださったりしたことが成功体験として心に残っています。ですから今後も「全世界の多くの人にエンターテイメントを届ける」のではなく、誰かの辛い時に寄り添えるような、お守りになるような作品をつくっていきたいと思っています。

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