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EXTRA BASS シリーズ 開発者 Interview part1

重低音ヘッドホン定番の第三世代は、想像を超えた進化を遂げていた!

取材:大橋 伸太郎

毎週どこかからヘッドホン/イヤホンの新製品発売のリリースが届く。そんな昨今、久しぶりに"オッ"と膝を乗り出したのが、ソニーがEXTRA BASSシリーズを一新して7月に発売するニュースを聞いた時である。初代のEXTRA BASSシリーズは2008年に誕生、重低音イヤホンの先駆にして立役者である。それまでオーバーヘッド型には低音重視モデルがあっても、インナーイヤー型ではうまく出来なかった。いうまでもなく、低域再生にはドライバーの径とハウジング容積が必要だ。ソニーの分厚い音響ノウハウがあってこそインナーイヤー型で重低音、という至難の技術的チャレンジが達成されたのだ。その後低音重視型のインナーイヤー型ヘッドホンを各社がこぞって手掛けるようになったのはご承知の通り。そして現在、空前のヘッドホン/イヤホンブームの真っ只中、従来の二機種から三機種にラインナップを強化してEXTRA BASSシリーズが三度目のデビューを飾る。重低音の先駆者の自信と新機軸がそこには込められているに違いない。

  • ソニーエンジニアリング株式会社設計2部1課 大里祐介氏

今回のインタビューに先立って新シリーズ3機種のフラグシップで新たに16mmドライバーを搭載したMDR- XB90EXを自宅で試聴した。EXTRA BASSシリーズは重低音再生のスペシャリストという印象があるが、中高域に透明感と輝きのあるワイドレンジのハイファイサウンドはなんだろう! 追随して登場した他社の<低音再生イヤホン>は作為的に低域を肥大させているので中域が濁って周波数バランスが悪い。しかしMDR-XB90EXはどこまでもクリアで解像感が高い。では、メインソースのロックやJ-POPを聴いてみよう。すると来た、来た、どっしりとした低音がしなやかに脈動を始める。感心したのはエレキベースがタイトに締まって解像感があること。響きがブヨブヨしないので最低域まで音程が明瞭に聴き取れて芯が捉えられる。新EXTRA BASSシリーズは低音の捉え方が他社と違うようだ。それでは、新EXTRA BASSシリーズの設計を担当したソニーエンジニアリング株式会社設計2部1課の大里祐介氏に新EXTRA BASSシリーズの開発テーマを聞いてみようと思う。

「EXTRA BASSシリーズの重低音再生という基本的なテーマは変わっていません。しかし、この数年で音楽の世界に変化が起きています。私たちは新EXTRA BASSシリーズ開発をスタートするにあたり、低音再生が欠かせない現在のクラブミュージックについての議論から始めました。初代EXTRA BASSシリーズを設計した時には、主にヒップホップを意識して音作りを行い、低音の量感を大切にしていました。しかし、近年のテクノやダブステップ等に代表されるコアな音楽は、リズムがより複雑化し、低音の量感等に加えてそのスピードに追従して遅れず鳴らしきる事がより重要になってきています。EXTRA BASSシリーズは根本的に重低音の心地よさにポイントを置いていますが、お客様にとってのその心地よさが変化してきているのだと思います。そのため、新EXTRA BASSシリーズは重低音の<リズム感>にこだわりました。もう一つ重要なのは、元々クラブや一部のマニアの間で聴かれていたダンスミュージックが、現在ではヒットチャートを占めるようなK-POPやJ-POPの音作りにも影響を与えています。だから、<少女時代>をクラブで大音量で流しても全然違和感がありません。初代のEXTRA BASSシリーズはクラブミュージックに密着したマニア向けの製品でしたが、今回のEXTRA BASSシリーズは重低音を研ぎ澄ませた結果、広い層の音楽ファンにもアピールする製品になったと思います。」

そうか。EXTRA BASSシリーズシリーズが元より狙う重低音のイメージは、他社よりもっと低い周波数にあったのだ。先駆者EXTRA BASSシリーズはすでに群れから抜け出していた。大里氏のいう<リズム感>とはオーディオ的には重低音の立ち上がりと立下り、つまり過渡特性である。しかし、重低音の量感とスピードを両立させるのは至難なはずだ。

「今回MDR-XB90EXにはMDR-EX1000で好評を博した16mmの大口径ドライバーを搭載しています。ただし、最初に試作してみると低音は出ますが重すぎました。パラメータを変えながら音響調整を行い、低音域や中音域を調整していっても、もやっとした重さがなかなか取れません。逆にスピード感を出していくと音が軽くなる、そのせめぎあいでした。試しに振動板の前面のハウジング内の容積を変えていったところ、中域の切れがよくスピード感だけでなく課題の<リズム感>が出せる最適な容積があることが分かりました。音響部材の吟味や組み合わせのノウハウもありますが、今回はハウジングの容積がカギでした。」前世代EXTRA BASSシリーズのユーザーのアンケートを見ると、「重低音は期待どおり凄いが反面、もっと高域の伸びと透明感が欲しい」というリクエストがあったが、今回の新製品は高域の切れ味、クラリティは明らかに進歩している。低音をさらに強化する一方、高域も伸ばしていく二律背反を開発チームはどうやって制したのだろう。「ハウジングの容積を変えた時点で、音の調整は全部白紙に戻ってやり直しなのです。EXTRA BASSシリーズの形状の特長にダクト傾斜という構造があります。音導管が振動板の先端から耳道の方向へ出ているのですが、MDR-XB90EXの場合、従来90度だったのに少し角度を付けています。その結果音導管の断面が太くなり方向、距離も変わっています。その総合的なバランスで新製品は高域がきれいな特性で伸びています。角度を地道に少しずつ変えて検証しました。アドバンスド・ダイレクト・バイブ・ストラクチャーとダクト傾斜、この二つがカギ。この検証に二ヶ月くらいかかりました。」

  • インナーイヤータイプEXTRA BASSシリーズのイメージ図。

今、日本でヘッドホン/イヤホンを発売している会社を数えてみたら150社に喃喃としているが、傘下に、レコード会社からハリウッドの6大メジャーに数えられる映画会社まで擁する企業はソニー一社。そのデータとハイテクを駆使すれば、高性能イヤホンはいとも簡単に作れそうに思えるが、どうやらそうでもないようである。「スタジオやコンサートホール、ダビングステージ(映画の音響製作の現場)の音響特性データを採って音作りに生かすということもやっていますが、ヘッドホンはそれを数値化してパラメータにしてそれを入力すればたちまちその音場に変わるという世界ではありません。たとえばモニターヘッドホンMDR-CD900ST、インナーのMDR-EX800STは設計者がスタジオに缶詰になってスタジオのエンジニアと共同で作った製品です。設計者が音楽の現場に行って感覚的に掴んだものを、最終的にメカ設計や音響設計に活かしています。
ソフトやコンピュータで何とかなる世界ではなく、今回のEXTRA BASSシリーズも先ほど話した空間容積を広げるとか音導管の角度を変えるとか地道にそこをちょっと削ってとか、逆に盛ってみたり(笑)とか、手仕事で詰めていく世界です。アコースティックでアナログの手法がないとちゃんとした音が作れない。これがヘッドホンの面白い所なんです。」低音を制するものは音楽を制する。その武器意外にも手仕事のエンジニアリングにあった。次に新EXTRA BASSシリーズのデザインストーリーについて訊いてみよう。