
瞬間と、余韻をつかまえる──
FE 50-150mm F2 GMで切り取る、自然との真剣勝負
写真家 井上浩輝 氏
井上 浩輝 / 写真家 1979年札幌市生まれ。北海道で風景写真の撮影をする中、次第にキタキツネを中心に動物がいる美しい風景を追いかけるようになり、2016年に米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』のネイチャー部門において、日本人初の1位を獲得。これまで発表してきた作品には、人間社会の自然への関わり方に対する疑問に端を発した「A Wild Fox Chase」、キタキツネたちの暮らしぶりを描いた「きつねたちのいるところ」などの作品群がある。写真は国内のみならず海外の広告などでも使用され、2019年には、代表作『Fox Chase』のプリントが英国フィリップスのオークションにおいて27,500ポンドで競落されている。現在、写真に加えてTVCMなどの映像の撮影も手がけ、2022年からは早稲田大学基幹理工学部非常勤講師として教壇にも立っている。著書 - 写真集『follow me ふゆのきつね』日経ナショナルジオグラフィック, 2017年、エッセイ集『北国からの手紙 キタキツネが教えてくれたこと』アスコム, 2018年、絵本『はじめてのゆき』Benesse, 2019年、写真集『Look at me! 動物たちと目が合う1/1000秒の世界』KADOKAWA, 2020年、写真集『Romantic Forest おとぎの森の動物たち』PIE International, 2020年など。
「大きくてずっしり」なのに「軽快」。第一印象は高性能と絶妙バランスの共存
手にしてまず感じたのは「最近のズームレンズにしてはちょっと大きくてずっしり」という物理的存在感でしたが、マウント寄りに重心があるためバランスが良く、実際の数字ほどの重さを感じませんでした。また、何と言っても100mmを超える焦点距離でのf/2ということを思いながら、その写りに期待を大きくしたことを覚えています。自分の言葉どおり、曇天下でも被写界深度を自在に操れる手応えがありました。鏡筒には多くのカスタムボタンが配置され、操作系もG Masterらしく質実剛健。総じて「サイズ感と高性能が無理なく同居している」、そんなポジティブな第一印象でした。
レースの花がふわりと浮かぶ──F2とF8、光と空気の描き分け
春を待つ近所の森の中でみつけたノリウツギの花です。殺風景になりがちな冬の森でワンポイントになってくれる存在で、気に入っています。今回は、望遠端の150mmで描画の具合を比べてみました。F2ではレース状のガク片が解像しつつ背景がしっかりと溶け、被写体が宙に浮くような立体感が際立ちます。F8まで絞るにつれて被写界深度が深まって記録性が向上していきます。開放で周辺情報を削ぎ主題を強調するか、絞って環境を写し込むか。段階的に表現の方向性を選べる自在さがこのレンズの魅力と言えます。
長時間の手持ち撮影にも強い。インナーズーム方式ならではの操作性と安心感
インナーズーム方式なので、焦点距離を変えてもレンズの全長が変わらないことで、フロントヘビー感がなくて、長時間の手持ち撮影でもひどい疲労をするものでもなかったのがうれしいところです。また、この方式によって、埃や水滴のレンズ内への侵入ポイントが減っているので、屋外で使用することが多い私としては安心です。そして、冒頭でも少し触れましたが、重量バランスが良いためか、重量として知らすスペック上の数字よりも体感として軽い印象があります。もちろん、操作系についても、いつものG Masterらしい質実剛健なスイッチ配置で安心です。「大きく見えるけど、軽快。」と評したいレンズです。
春の情景が教えてくれた、解像とぼけの美しい調和
このレンズの作例を撮っているうちに近所の森にも春がやってきました。フキノトウとエゾエンゴサクを撮影しています。ピントがあっているところはしっかりと解像してシャープに、被写界深度(ピントが合って見える範囲)から外れるに従ってなめらかにぼけていくという、まるで単焦点レンズのような描写を楽しむことができます。フキノトウは望遠端150mm、エゾエンゴサクは広角端50mmでの撮影です。どちらの焦点距離でも解像とぼけの両立が揺るがないことを感じていただけると思います。
視線が合う瞬間──描写力とAFが支える、野生との出会い
ネズミを食べていたキタキツネが草むらから上がってきたところを撮ったものです。耳をピーンとさせてやや警戒気味に身体を動かしています。このとき、キタキツネの目が草むらから上がってきたときから、このカットが撮れるまで、ずっと30コマ/秒の連写をしていたのですが、歩留りはほぼ100%でした。歩く速度とはいえ、こちらに向かいつつある動物の瞳をしっかり捉え続けるAFを使いながら、このゆるやかなぼけの表現を楽しむことができるのがうれしいです。もうひとつ付言すると、この撮影時は海霧がひどい午後でした。動物をいきいきと撮るためにできるだけ低い位置で撮りたいとなったときに、砂塵や海霧は厳しい環境と言えそうですが、インナーズーム方式といつもの防塵防滴構造のレンズということで、安心して撮影に臨めました。
寄るか、寄せるか。──2つのアプローチで滲み出す命の気配
50-150mmという帯域は、背景を大きくぼかして被写体を際立たせる一方で、まわりの空気感も取り込める絶妙な距離感を与えてくれます。しかし撮影を重ねるうちに、「あと一歩だけ寄りたい」という葛藤に出会うこともありました。このようなときには、二つの解決方法があります。ひとつはα1シリーズやα7Rシリーズなどの超高画素ボディと組み合わせて、撮影後に大胆にトリミングしても約3,000万画素級の解像感を保てる“後寄り”のアプローチ。もう一つは撮影時にAPS-Cクロップをオンにして225mm相当の画角を得る“即時寄り”のアプローチです。どちらの方法でもインナーズーム方式の良好な重量バランスはそのまま、F2の浅い被写界深度をいかした立体感を維持できるため、環境描写とクローズアップを一連の流れで撮り分けることができることでしょう。
遠景まで描き切る──十勝岳が語るズーム全域の解像力
噴煙を上げる夕暮れ時の十勝岳。PC上で拡大してみると、噴煙が薄紫の夕光を透かしている様子や、斜面を走る無数の風食ライン、森林限界にしがみつくように立つ1本1本の木々まで破綻なく描かれていて楽しくなります。長辺2m級のプリントでも破綻しないことでしょう。これだけの解像があれば、たとえばRAW現像をするときに、過度にシャープさやテキスチャなどを盛らなくても十分な見映えが得られます。
APS-CボディでもF2の恩恵を。
APS-CボディにFE 50-150mm F2 GMを組み合わせると、35mm判換算で75-225mm F2相当の画角が得られます。フルサイズ用FE 70-200mm F2.8 GM OSS IIを装着したときに近いフレーミングが、しかも1段明るいF2で実現するのです。この新鮮さがまず大きな魅力です。また、APS-C機から野生動物撮影を始めた方々にとっての“新しい選択肢”になる点も魅力的です。従来、明るい望遠ズームはF2.8が上限でしたが、このレンズなら浅い被写界深度と高いシャッタースピードを両立し、早朝や薄曇りのフィールドでもISOを無理に上げずに済みます。さらにインナーズーム設計のおかげで重量バランスが良く、軽量なAPS-Cボディでも前玉に振られにくいため、機動性と描写力を一度に引き上げてくれる存在と言えます。つまり、野生動物撮影を楽しむAPS-C機ユーザーにとってのステップアップは、これまでは@フルサイズ機へ移行するためにカメラ本体とさらに長いレンズを導入、AAPS-C機はそのままにさらに長いレンズを導入という二つの選択肢がメインだったのですが、今回ご紹介しているレンズの出現で、Bフルサイズ用FE 70-200mm F2.8 GM OSS IIを装着したときに近いフレーミング+ちょっと明るいF2を得られるこのレンズを導入するという選択肢が増えたということができます。
観察者から“彼らの世界”へ──APS-Cクロップが導く視点の転換
50mm(フルサイズ)からAPS-Cクロップで得られる225mm相当まで、同じ開放F2でシームレスに行き来できる利点は想像以上に大きいと思います。50mmでは動物が身を置く環境を撮ることができます。一方、レンズ側面のボタンに仕込んだAPS-Cクロップ機能を押して瞬時に225mmへ切り換えれば、露出もぼけ量も変えずに被写体の表情や質感へ一気に近づくことができます。これは、動物写真であれば、写真表現の視点が観察者から被写体となっている動物の世界へと移り変わることを意味します。今回ご紹介しているレンズを使うことで、レンズ交換も露出再調整もなしにこれができるのです。とても大きなメリットです。
「待ち」と「絞り」が鍵。霧と向き合う被写界深度コントロール
霧が厚く出たり薄く流れたりする日の白樺林での撮影です。ここでは、「待つこと」と「露出の微調整」がすべてでした。気まぐれな風が運んでくる霧のせいで、林の奥行きが見え隠れするので、ファインダー内でほどよく森の奥が見えるようになるまでじっと待機です。F8まで絞り、手前の白樺から4列目あたりの幹までは解像するよう被写界深度を確保しています。露出(ISOは100に固定しているのでシャッター速度で調整される露出です)は、EVF(電子ビューファインダー)の表示とそれを見る自信の目を信じて決めます。結果として、長時間、湿った霧の中でレンズを据え置く必要がありましたが、この撮影に使用した今回ご紹介しているこのレンズはインナーズーム構造と防塵防滴に配慮された設計が施されているため、鏡筒伸縮による吸湿リスクがなく、安心してシャッターチャンスを待てた点も大きな助けとなりました。
野生の息づかいを、そのままに。臨場感あふれる一瞬を切り取りたい人へ
「野生動物の息づかいを臨場感ごと切り取りたい」と願う方々にこそ薦めたい1本です。フルサイズ機と組み合わせれば、F2の浅い被写界深度がもたらす立体感は群を抜き、夜明け前のブルーアワーや薄曇りの森でもISOを抑えたまま毛並みの微細な起伏や息づく水蒸気まで描写できそうです。多くの撮影者が暗さゆえにあきらめる時間帯にも活躍が期待できます。一方、APS-Cボディと組むと75-225mm相当となり、フルサイズ用70-200mm F2.8を装着したときに近いフレーミングが、1段明るいF2で実現します。夜明け直後の湿原や薄明の雪原など光量が乏しい時間帯、インナーズーム構造の密閉性が活きる埃や水分が多い現場、これらの環境で“単焦点級の描写をズームで”という欲張りな要求を叶えたい方々に、強くおすすめできるレンズです。
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