
ライブの「今」を切り取り、リアルタイム伝送。遠隔地へ感動を広げた「Creators’ Cloud」
令和7年4月4日(金)〜6日(日)に開催された都市型フェス「CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2025」。その中のイベントの一つで、アーティストがリハーサルやライブ中に撮影した写真をソニーが提供するクラウド制作プラットフォーム「Creators’ Cloud(クリエイターズ クラウド)」を使って、遠隔スポット間でリアルタイム転送する技術が使われた。このサービスを駆使した企画はどのように生まれて、どのようにリアルタイム転送されたのか、ソニー株式会社でプロダクトプランナーを務める浜田雄、今井勇太、株式会社ソニー・ミュージックソリューションズの矢澤ゆりに話を聞いた。●「CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2025」とはソニーミュージックグループを中心としたCENTRAL実行委員会が主催した新たな都市型フェス。令和7年4月4日(金)〜6日(日)に、Kアリーナ横浜、KT Zepp Yokohama、横浜赤レンガ倉庫、臨港パークで開催。横浜の街そのものが巨大なフェス空間となり、海外からも注目を集めるアーティストや、アニメ、テクノロジー等の多彩なエンタテインメントが横浜の街に集結した。
CENTRAL FIELD「おもむく」での金村美玖さん
CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2025での緑黄色社会
●写真のリアルタイム転送を実施した展示企画「おもむく」について臨港パークで開催する入場無料エリア「CENTRAL FIELD」において、写真に造詣が深く、フォトグラファーとして写真展を開催した実績のある日向坂46メンバーの金村美玖さんが、「横浜」「『ひな誕祭』当日に撮るリアルタイムな瞬間」「自身の日常」をテーマに写真を撮り下ろし、「CENTRAL」のシンボルでもあるコンテナを使った新たな展示企画を実施。金村さんが視ている世界の共有を目指した。
日向坂46の金村美玖さんhttps://www.hinatazaka46.com/s/official/news/detail/E00657
横浜市の臨港パークで開催されたCENTRAL FIELD「おもむく」の会場全景
パーパスの下にソニーグループが集結。エンタメと技術の融合でより大きな感動を
――「CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2025」(以下、CENTRAL)はどのような意図、目的で企画されたのですか?矢澤:年間を通して多くのフェスが行われる中で新しくフェスを立ち上げるにあたり、まず考えたのは「ソニーとしてどんな付加価値がつけられるか」ということです。もちろん所属するアーティストやキャラクターも付加価値のひとつですが、まずはソニーグループ全体の実験の場にしたい、という思いがありました。さらに、ソニーグループに関わらず、開催地の自治体や他の企業とコラボレーションできる場になれば、とスタートしたイベントになります。
株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ 矢澤ゆり氏
――どのような経緯で今回の企画をご相談されたのですか?浜田:ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを掲げています。本パーパスの元、エレクトロニクスとエンタメ間での連携を強化し、事業を推進しているためCENTRALも企画の段階から参加しました。僕らも音楽が好きなので、「こんなことはできますか?」と細かいイベントのことを相談させてもらいましたし、矢澤さんも僕らのやっていることに理解があって技術面にも詳しいので、逆に提案いただくこともありました。矢澤:写真展の話は、ソニー株式会社のライブ共創PJのメンバーと「テクノロジーと組み合わせることができないか」という話し合いの中で持ち上がり、「フェスの開催期間中に横浜スタジアムで単独ライブを行う日向坂46に参加してもらえないか」と話が進んでいった感じです。日向坂46のメンバーである金村はデジタル一眼カメラα™(Alpha™)のユーザーで写真に精通しているので「αを使ったコラボレーション」は一案でしたが、テクノロジーとエンタメをより高次元でコラボさせたい、となった時に、皆さんからご提案いただいたのが「金村にライブ当日に写真を撮影してもらい、その画像をリアルタイムで伝送する」というアイデアでした。
音・リアルタイム性・香りを写真に付随して新たな感動体験を楽しめる展示に
――写真展「おもむく」ではどのような展示をしたのですか?今井:今回の展示では新たな写真の共有体験として、「音」「リアルタイム性」「香り」といった視覚以外の感覚を付随させることで、記憶・瞬間・感覚を共有できる3つのブースをつくりました。目指したのは、「今の時代に写真を撮る意味」や「なぜ人は表現をするのか」という問いを提示する新たな展示企画です。
ソニー株式会社 プロダクトプランナー 今井勇太氏
「音」は金村さんが撮影した写真と、撮影した場所で収録した音を合わせて再生。「香り」は金村さんの日常を写真で垣間見つつ、その時に感じた香りが漂ってくるイメージです。そして「リアルタイム性」では、CENTRALと同日に横浜スタジアムで開催された『ひな誕祭』の本番前のメンバーやステージを金村さんに撮影していただき、ソニーの「Creators’ Cloud」を通してリアルタイムで展示ブースのある臨港パークに写真を伝送。ファンの皆さまには、金村さんの視点で『ひな誕祭』を楽しんでいただくことができました。
金村美玖さんが本番中のステージ上で撮影した「6回目のひな誕祭」@横浜スタジアムの写真
横浜スタジアムからCENTRAL FIELD「おもむく」に転送されブラビアに表示された「6回目のひな誕祭」の写真
矢澤:エンタメ×テクノロジーを前面に出すよりも「感動体験をつくるにはどうしたらいいか」を軸に企画を考えました。そこから「本人が感じている日常の感覚を共有できたらいいよね」となり、本人と一緒にいる気分を味わえる「音」や「香り」を付随させるアイデアが出てきました。「リアルタイム性」についても、ライブ当日の本人の緊張感を共有できたらいいよね、というところから形にしていった感じです。
ソニー株式会社 プロダクトプランナー 浜田雄氏
浜田:金村さんは写真の専門教育を受けられ、写真雑誌の連載やギャラリーでの個展、SNSを通じたファンとの交流を持たれています。ファンの皆さんのコメントを拝見すると、金村さんが写真で表現したかったメッセージがしっかり伝わっているように感じました。この企画でも、金村さんの「記憶としての写真」と「切り取った思い」をそのまま伝えたいと考え、ソニーが提供できる技術の中から超高精細かつ色再現性にも優れた8K ブラビア®や、スマートフォンのXperia™などを選んで展示に活用しています。
撮影画像は瞬時にストレージにアップ。画像転送の手間がないハイスピードなフローに
――リアルタイム伝送のワークフローについて教えていただけますか?浜田:実際に稼働する現場は、撮影する日向坂46の金村さん、金村さんのマネージャー、展示会場となる臨港パークの3カ所です。まず、金村さんがカメラで写真を撮ります。撮影画像はソニーが手掛ける「Creators’ Cloud」のストレージに自動的にアップロードされるように設定していたので、マネージャーさんは「Creators’ Cloud」で画像をすべて確認してGoogle Driveに転送、ブラビアに表示される、という流れになります。
――今回このようなフローで進めて、ライブ現場の状況はいかがでしたか?矢澤:当日の現場は、ライブを最善の形で行うためのスケジュールが細かく組まれています。日向坂46チームにとっては多忙な中でリアルタイム伝送に協力することになるため、とても負担のかかることでした。正直なところ、日向坂46チームに複雑な伝送手順を行っていただくことは、現実的には不可能だったと思います。そのような中で、事故なく正しく写真が展示に反映できたのは、「Creators’ Cloud」がシンプルで使いやすかったからです。具体的にいうと、カメラの電源を一度オフにして、再度電源を入れるだけで自動的にストレージに撮影画像を保存できる。結果、画像を転送する手間を省き、リアルタイムでの伝送ができたわけです。
浜田:本機能は「JPEGのみ」など事前に決めたファイルや、「レーティングを付けた画像のみ」と意図したカットだけをストレージに上げられるのも利点です。事前に不要なカットを省くことができるので、セレクトの負担も軽減できます。矢澤:まったく違うジャンルの現場を繋いで相互理解を促し、調整するのは大変な部分もありましたが、今回体験したことで共通言語ができたと感じています。今後、同じチームでこのような機会があった際には、この経験が絶対に生きると思うので挑戦してよかったです。
撮影者の表現したい世界観を拡張し、来場者に思いが届く写真展を実現
――来場されたお客様からの反応はいかがでしたか?矢澤:写真展は3日間で約5000人にご来場いただきましたが、とても評判が良かったです。金村が写真で表現したものを音や香り、リアルタイム性で拡張した世界観がファンの皆さんも届き、それを理解しようという思いを感じる感想が多かったです。皆さんの声からも、エンタメとテクノロジーによって彼女の世界観を伝えるサポートができて良かったと思っています。今井:金村さんには普段からソニーのカメラをお使いいただいているので、αを持って会場を撮影するファンの方も見受けられました。会場で皆さんの笑顔を見ると、金村さんが発信されていることに共鳴しているファンの方にも喜んでいただけたのかな、と思います。
浜田:弊社にはテクノロジーやプロダクトがたくさんありますが、彼女の伝えたいことをオーバーに演出するのではなく、そのまま伝えたい、という思いからタイムラグがあまりないリアルタイム伝送や、撮りたいものを高精細に写すカメラとレンズ、それをきれいに映し出すブラビアを活用しました。来場された皆さんのコメントを見て、その思いがきちんと伝わっていることがわかり本当にうれしかったです。――今回の企画ではどのようなことを達成できたと感じますか?矢澤:単にエンタテインメントとテクノロジーを掛け合わせるのではなく、アーティストが大事にしていること、音楽ファンが大事にしていることを汲み取って表現できたと思っています。エンタメ×テクノロジーはあくまで手段であり、伝えたいのは日常の同じ空間を体感する、臨場感を味わうなど世界観だったので、双方が押しつけることなくいいバランスで歩み寄ることができたと感じています。浜田:まずはパーパスがあって、その元にソニーのテクノロジーとソニー・ミュージックのエンタメやアーティストがありますから、お互いにパーパスを大事に進めることができたと思っています。
画像を取り込む負担がなくとても便利。個人でも仕事でも使える「Creators’ Cloud」
――カメラから直接クラウドへアップロードできる「Creators’ Cloud」のサービスは個人でも使うことができますが、どのような使い方を想定されていますか?浜田:基本的には写真、映像のバックアップや、Google DriveやAdobe Lightroomなど、他のサービスとの連携を想定しています。今井:カメラの場合、どんなユースケースでも撮影した後に必ずスマホやPCなどに取り込むと思いますので、その部分を自動化して、かつクラウド化するのが「Creators’ Cloud」です。つまり「取り込む」というステップを排除し、負担を軽減できるのが大きなポイントになります。
浜田:使い方として想定しているのは、広告などで撮影の現場に来ることができないクライアントとの画像共有などです。撮ったその場からほぼタイムラグなしにストレージに画像が上がるので、遠隔で撮影画像を確認し、現場が上手く進んでいるかチェックする、といった使い方もできます。場合によっては海外でも繋げることができるので、海外撮影でストレージに上がった画像を確認し、編集者が東京で写真をセレクトするなど、カメラマンの帰国を待たずにその後の工程を進めることもできるわけです。また、趣味で写真を撮られている方も、旅行中に撮った写真を家族や友達と共有するなど、さまざまな使い方ができると思います。今井:送り先はクラウドなので、一度送ってしまえばスマホからなど端末を問わずに確認できるのもメリットのひとつです。「Creators’ Cloud」を使えば事前に設定しておくだけでGoogle DriveやAdobe Lightroomのクラウドにも自動転送できる。つまり、リビングでコーヒーを飲みながら、クラウドに転送された画像をチェックするようなこともできるようになります。浜田:ユーザーによっていろいろな使い方ができると思いますので、ぜひ我々の想像を超える新しい使い方をして欲しいと思います。
双方が大切なこと理解して共に創り上げる機会をグループ内で増やしていきたい
――今後の展望やエンタテインメント×テクノロジーの可能性など、読者に向けてメッセージをお願いします。浜田:エンタメ側には独自の表現があり、テクノロジーにはシーズがあるので、どちらが発信でもコラボレーションできる相性のいい掛け合わせだと思っています。CENTRALでは、まずクリエイターである金村さんのやりたいこと、伝えたいことを我々が理解した上で、それに合ったテクノロジーを選ばせていただきました。一方で、テクノロジーのシーズベースでつくったものがクリエイターの表現の幅を広げていく、という側面もあるので、ソニーグループの力を掛け合わせて新たな価値を提案していきたいと思います。今井:私はカメラの商品企画を担当しているので、次につくるカメラはどういう仕様にするか、どんな機能を入れるかを考えるのが主な仕事です。そこでポイントとなるのは、ユーザーの表現したいこと、伝えたいことに対して製品がどうサポートできるか、です。今回、金村さんに使っていただいた「α7R V」は非常に高解像度のカメラで、その場の空気感まで写し撮ることができる製品ですが、誇るべきは画素数の多さそのものではなく、その表現力です。CENTRALでは、フォトグラファーでありアーティストでもある金村さんが感じていること、表現したいことをサポートできたと自負しています。ユーザーのクリエイティビティを発露するためのサポートをし、寄り添っていくことがプロダクトの使命なので、今後も皆さんと一緒にいろいろなものをつくり上げていきたいです。矢澤:エンタメとテクノロジーはとても相性がいいと思いますが、難しい側面があることも事実なので、今回のように双方が大切なことを理解しながら一緒に何かをつくり上げる機会がグループ内で増えていけばいいなと思っています。プロダクトとアーティストという観点で考えると、どうしても「予算のあるアーティストが高額の最新技術を使う」というイメージがあります。でも、もっと気軽にテクノロジーとエンタメの意味ある融合ができる気がしていて。それを外部に託すのではなく、グループ社員みんなが前向きに考えることでいい企画がたくさん生まれるのではないかと思うのです。今回はいいバランスでコラボできたので、こういった融合をどんどん増やしていきたいと思っています。Creators' Cloudでカメラから直接クラウドに画像をアップロードする方法詳細はこちら
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