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録音技師・藤本賢一氏が語るソニーショットガンマイクロホン「ECM-778」の魅力とは

録音技師・藤本賢一 氏
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PRONEWS
掲載記事の転載
2025.8.8
txt:渡辺健一 
構成:編集部

目次

カメラの進化により、誰でも高画質な映像を手軽に撮影できる時代になった。その一方で、「音」の領域、とくに映画のような立体的で臨場感のある「シネマ・サウンド」は、今なおプロの技術が求められる世界だ。

なかでも映画収録の現場では、海外製の高価なショットガンマイクロホンが主流となっており、数十万円クラスの機材も珍しくない。そうしたなか、ソニーはシネマ品質の音を現場で捉えるための新型ショットガンマイクロホン「ECM-778」を開発した。

日本アカデミー賞 最優秀録音賞を受賞し、数々の映画作品で現場録音を手がけてきた録音技師・藤本賢一氏は、設計段階から録音技師としてのプロの視点で製品づくりのフィードバックを行ったという。

今回のインタビューでは、藤本氏が撮影現場でマイクに求めるもの、そして「ECM-778」に感じた魅力について話を聞いた。

ソニーの新型ショットガンマイクロホン「ECM-778」※画像をクリックで、製品ページへ

藤本賢一

録音技師 埼玉県出身
日本映画学校(現・日本映画大学)1期生。録音助手としてキャリアをスタートし、映画・ドラマの録音現場で経験を重ねる。
日本アカデミー賞 最優秀録音賞を2度受賞。現場収録から仕上げまで一貫した音づくりに定評がある。
ソニー「ECM-778」では設計段階から開発チームと共創し、現場目線での意見交換や製品テストを通じて、プロフェッショナルの視点を製品に反映させてきた。

日本アカデミー賞 最優秀録音賞受賞 藤本氏の録音技師としての道のり

録音の世界に入ったきっかけを教えてください。

藤本氏:高校時代に、映画監督を目指していた同級生の8ミリ作品を手伝っていて、文化祭のたびに一緒に撮っていました。卒業後、その経験もあって映像系の専門学校に進もうと願書を取りに行ったんですが、希望していた演出や脚本コースはすでに締め切られていて、空いていたのが録音とドキュメンタリーだけ。なんとなく録音に丸をつけたのが始まりです。
その後、実習で映画の撮影現場に行く機会があって、そこで出会った助手さんたちがとても親切にしてくれて。何度か呼んでもらううちに、卒業のタイミングで「これからどうするの?」と声をかけてもらって、そのまま一緒に働き始めました。

録音技師としての一歩目や、その後の歩みについて教えてください。

藤本氏:とある作品でチーフ(助手のトップ)をやったときのプロデューサーと話していて、僕を音楽好きの録音部として覚えていて、その後、そのプロデューサーが音楽をテーマにした作品を手がけることになり、「音楽好きなら」と、僕を録音技師として呼んでくれたんです。チャンスを与えて貰ったんですね。
当時は助手として、どんな作品に携わっても現場の流れを即把握できるし、ある程度の信頼も得ている中、楽しいけどマンネリ感も感じていた頃だったので、録音技師にチャレンジできる事は期待が不安を上回りました。
しかも音楽の映画でしょ、そりゃもう、燃えましたよ。
録音技師の経験を重ねると、自分のやりたい事を直接監督や俳優にアプローチする頻度が増える為、どう録るかより、自分がどう録りたいかに気持ちがシフトしていき、そこからまた別次元の面白さが加わっていきました。判断の苦しみも増えますが、それ以上にどんどん楽しくなっていきました。
そうやって積み重ねていくうちに、ありがたいことに日本アカデミー賞をいただく機会にも恵まれました。

いい音とは何か、現場が求めるマイクの条件

映画録音で使われるマイクとはどんなものでしょうか?

藤本氏:映画の音は、ブームを使うショットガンマイクロホンと役者の服に仕込んだラベリアマイク(無線)を適度にミックスして、臨場感のある音を作っています。
特にショットガンマイクロホンはその場の雰囲気や距離感を録音できる重要なマイクです。ピンマイクだけだと口元で喋った言葉だけになり、台詞は伝えやすいのですが、その場の空気感や感情が乏しくなります。それでは面白くないですよね。
僕はすべての音をなるべく撮影現場で録音したいと思っています。後で作った音を重ねるよりも、演技をしているときのその場の音の方がワクワクしたりドキドキすると思うんですよ。

現場で求められる「いいマイク」とはどんなものでしょうか?

藤本氏:ショットガンマイクロホンを出しているメーカーはそれほど多くなくて、プロ用の定番になっているような機種ばかり。「入門用」のマイクもあるんですが、最近は一歩先の音を求める人が増えてきた印象です。
僕自身、昔から使っているマイクがあって、「音の感じ」や「使い勝手」を今の現場向けにブラッシュアップしたような製品があればな…とずっと思っていました。

どんな音が良いマイクなのでしょうか?

藤本氏:映像の音って、画にしっくりくることが大事なんです。つまり、音にも「距離感」が必要なんです。
シーンによって役者の声色や息遣いが強調されたり、寄りなのか引きなのかによって音の録り方が変わったりします。
ピンマイクとショットガンマイクロホンを使い分けながら、その画に合った音をつくれること。台詞をクリアに録るだけじゃなくて、その声が「どこから聞こえてくるのが自然か」まで考えること。
画の空気感や構図に合わせて、音の「距離感」や存在感をコントロールできる。そういうマイクが現場では本当に信頼されるし、それが良いショットガンマイクロホンだと思います。

音のプロとして、ショットガンマイクロホン「ECM-778」に期待するもの

「ECM-778」に求めたものはなんですか?

藤本氏:とにかく、すっきりとした台詞(声)が録れるマイクが欲しかったですね。面が当たっている(マイクの芯が合っている)時の気持ちいい感じが欲しいんですよね。海外メーカーのマイクもいい製品が多いんですが、海外技術者にマイクのバージョンアップ要望を伝えるには明確な言葉が必要で、ニュアンスを伝えるのは相当難しかったですね。
ソニーと話した時には、いろいろ分かってくれて、感覚的なものなので言葉にならないですが、「パイーン!」っていう感じなんですよ。「パイーン感」が欲しいと伝えたら、それをうまく反映してくれて、実際に使用してモニタースピーカーで聞いたら、「いいじゃん、パイーン感が出てるよ」って思いました。
あと、演者がささやくように話していても、しっかり収音できる安心感も重要でした。細かい声のニュアンスまで逃さずにとらえることで、芝居の質感がグッと伝わってくるんです。実際に音を聞いたときも、人の声の繊細な息遣いまでしっかり収めてくれるという印象でした。

サイズや重量はどうですか?

藤本氏:日本の家の中で撮影する際には、ショットガンマイクロホンが長いと感じることが多いんです。もうちょっと短ければもっと表現できるのに、これまではそれが出来なかったんです。このマイク(ECM-778)はかなり短くて、とても使いやすくなりました。音の距離感が出しやすい。
重さも、軽すぎると逆にブームのコントロールが難しくなることもあるんですが、このマイクはそのバランスがちょうどいいんです。手元でのコントロールもしやすい。長時間持っていても安定して扱える感じがありました。

撮影現場でどう使うのか?
日本語がきれいに聞こえるマイクとは?

このマイクはどんな撮影現場で活躍しそうですか?

藤本氏:最近は、海外製の高級マイクを使う技師も増えてきましたが、僕は少し違う考えを持っていて。海外のマイクって、どうも海外の役者の声、というか発声スタイルに合わせてチューニングされている印象があるんですよね。日本語だと、ちょっと高音がうるさく感じることもある。
日本語を話す日本人の声にちゃんと合うマイクこそ、日本の撮影現場には必要だと思っていて。本当に「日本語がきれいに聞こえるマイク」が、ずっと欲しかったんです。
そういう意味では、このマイクは僕が求めていた音をちゃんと録れる一本だと思いますし、それを日本のメーカーであるソニーが作ってくれたことに、大きな意味を感じています。
日本語って独特な響きや抑揚があるので、それを自然に、違和感なく収音できるマイクがあると、現場としては本当にありがたいんです。

このマイクはどんな方に使っていただくのが良いとお考えですか?

藤本氏:とくに、これから現場に出ていく若い録音技師にとっては、最初の一本としてちょうどいいんじゃないかなって思います。
音がすごく素直で、クセがないんですよ。だから、「あ、ちゃんと録れてるな」っていう感覚を掴みやすい。
サイズもちょうどよくて、扱いやすい。ブームを振ってても変なストレスがないんですよね。
こういうマイクでしっかり音と向き合うっていう経験を積んでほしい。そうすれば、自分の耳もどんどん育ってくるし、現場でも安心して使い続けられる一本になると思います。

ソニー「ECM-778」 製品ページ

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