九州産業大学大学院 芸術研究科 造形表現専攻 写真・映像領域 作品展 Gazing at the Pulse 脈を見つめる
- 会期
- 2026年10月2日(金)〜10月8日(木) 11:00〜19:00
『やわらかな呼吸』
甲斐 菜月(かい なつき)

特別ではないはずの場面をふと切り取ると、急にその光景が特別に見えてしまう。そんな「なんでもないような風景」に言葉にできない魅力を感じ、シャッターを切った。多くの風景と向き合う中で、「私にとって日常でないものは、誰かにとっての日常である」という考えが生まれた。
それぞれの場所には、それぞれが語る物語がある。それは、ドラマのように綺麗に起承転結が整ったお話ではなく、日々を生きる主人公たちがポツポツと語る、とりとめもない「ナラティヴ」のようだ。
足を向けた地で自分と被写体との一瞬の交差の中でそれぞれが語るナラティヴを覗いて触れた。その断片を集め、重ね合わせることで、大きな群像劇を静かに紡ぎ出そうとしている。
2002年生まれ。福岡県出身。
2025年3月九州産業大学写真・映像メディア学科卒業。
フルサイズ一眼レフカメラ、デジタル中判カメラを主に使用している。福岡を中心に各地で撮影を行う。主に初めての場所や、自分に馴染みのない所に赴き、そこで出会う一期一会の光景を収めている。
展示歴(グループ展)
2022年 九州国立博物館×九州産業大学 撮る博物館『邂逅』 九州国立博物館
2024年 『#META』「a line」 art space tetra
『しっ、静かに』
桂 克栄(けい こくえい)

現代において、SNSやニュースを通じて流通する断片的な情報は、人々の認識に大きな影響を与えている。中国で暮らす母もまた、そのような環境の中で、日本に住む私に対して強い不安を抱いている。そこには、戦争が再び起こり得るという想像も含まれている。
しかし、実際の私の生活はきわめて平穏であり、日常の中に戦争の気配を感じることはほとんどない。母が受け取っている情報と、私自身が日々感じている現実とのあいだには、大きな隔たりが存在している。これが、本作品を制作するきっかけである。
本作では、母が想像する「危険な日本」と、私が実際に生きている「静かな日本」とのあいだに存在するズレに着目した。特に、情報によって生まれる偏見と、実際に現地での生活とのズレを、写真を通して表現することを試みている。
1997年生まれ。中国南京出身
2020年6月中国・山西伝媒学院写真専攻卒業
日本各地を中心に撮影を行う。日常生活や旅先で出会った風景を主な題材とし、その瞬間に感じた空気や光、時間の流れを写真として記録している。近年は写真とテキストを組み合わせた作品制作に取り組み、写真表現の可能性を探っている。
展示歴(グループ展)
2019年 『平遥国際写真展』中国・平遥
2024年 『島展』福岡市美術館
2024年 『掬』 福岡市美術館
2025年 『The Islands』福岡アジア美術館
『生きている』
朱 世鵬(しゅ せほう)

アルツハイマー型認知症を患う祖母は、長年にわたり祖父によって介護されてきた。しかし最近、祖父が心臓病で倒れ入院したことで、それまで当たり前のように続いていた家族の日常は突然揺らぎ始めた。祖母と祖父の二人を同時に支えなければならない状況のなかで、家族は戸惑い、祖父がこれまで一人で背負ってきた介護の重みを初めて実感した。それでも祖父は、自分の苦労について語ることなく、「祖母が生きていて、そばにいてくれるだけでいい」と静かに話した。
本作品では、病によって変化する家族の姿と、そのなかにある言葉にならない愛情や責任を写真によって記録している。
1999年生まれ。中国江蘇省淮安市出身
2022年6月 中国伝媒大学南広学院 写真学科 卒業
小学生の頃、父から初めてカメラを譲り受けたことをきっかけに、日常を記録する写真を撮り始めました。その後、大学で写真を専門的に学び、写真表現と理論について学んできました。2020年、祖父母が相次いで病気になったことをきっかけに、私はカメラを家族へ向け、ケアの日常を継続的に記録するようになりました。写真は単なる記録ではなく、家族を理解し、ケアの関係性について考えるための手段となっています。現在は、ケアと写真表現の関係をテーマに、写真を通してケアの経験や家族のつながり、そして記憶をどのように表現できるのかを探究しています。
展示歴
2019年 『中国・セルビア青年写真展 』 ベオグラード中国文化センター
2021年 『魚』逃逸グループ展 中国伝媒大学南広学院
2025年 『The Islands』 福岡アジア美術館
『A Familiar Distance』
張 驍(ちょう きょう)

地方の風景を見ていると、初めて来た場所なのに、どこか懐かしく感じることがある。古い家、静かな道、置かれた物の様子が、自分の記憶にふれるからだ。しかし同時に、私はその風景の中に入りきれず、少し離れた場所から見ているようにも感じる。そこに確かに生活があったはずなのに、目の前には人の姿よりも空白が残っている。
生活の気配と広い静けさのあいだで、風景と記憶がゆっくり重なり、また少しずつずれていく。
2000年生まれ。中国安徽省出身。
2022年 温州大学環境デザイン学科卒業
大学時代、友人のミラーレスカメラで撮影したことをきっかけに写真に興味を持つ。シャッターの音が響いた瞬間、自分の感情も小さな一枚の写真に刻まれたように感じ、写真制作へと進むようになった。
現在は大学院で写真を学びながら、風景の中に残る生活の痕跡と時間の流れをテーマに制作を行っている。人が暮らした場所や、使われた物、道に残る気配に注目し、目には見えにくい記憶や感情を写真で表そうとしている。人々の生活や、そこに残された生活の気配に目を向け、静かな痕跡を通して、記憶と生活の関係を探っている。
『流木の上』
陳 健翎(ちん けんれい)

都市の中心から少し離れた場所を歩いていると、道路や空き地、住宅の壁、田畑の端に、電柱の影が静かに伸びていることがあります。はじめは何気なく見ていた影でしたが、何度も見つめ直すうちに、光や周囲の環境によって形を変えながら、その場所に流れる時間や距離を映しているように感じるようになりました。撮影を続けるなかで、私はいつのまにか一本の電柱の影を探すようになっていました。その影に導かれ、ときには少し縛られているように感じることもあります。しかし同時に、それは私が風景を見るための小さな足場でもあります。
「流木の上」というタイトルには、流れのなかにある不安定なものに身を預け、そこから世界を眺めるような感覚を込めています。写真に残したいのは、影そのものだけではなく、その場所に一瞬たしかにあった静けさと気配です。
1999年生まれ。中国・安徽省出身。
2024年3月に成安造形大学芸術学部芸術学科写真コースを卒業。
写真のアーカイブ性に強い関心を持ち、自身の作品を通して「見ること」の本質を探究している。リアルと抽象が交錯する境界に目を向け、身近な景物を観察することで自己を見つめ直し、社会とのつながりについて考察している。
受賞歴
2024年 成安造形大学卒業制作展 優秀賞
個展
2024年『道草』一茶亭(京都)
グループ展
2025年 『島展』福岡アジア美術館 交流ギャラリー(福岡)
2024年 『Selection展2024』成安造形大学キャンパス美術館(滋賀)
2024年 『成安造形大学卒業制作展』京都市美術館別館(京都)
『滲』
陳 子曦(ちん しぎ)

都市とは、単なる建築物の集合ではなく、幾重にも重なる「境界」によって形づくられた空間ではないだろうか。
窓や扉――そうした境界は、内と外を隔てる物理的な仕切りであると同時に、その向こう側の気配を滲ませる媒介でもある。
そこに見えるのは、意図して発せられた情報ではなく、むしろ無意識のうちに表れ出る痕跡である。私的な空間は、こうした境界を通して、確かに誰かがそこに存在しているという気配を外部へと伝えている。
シャッターを切る瞬間、境界は視線を遮る障害物ではなく、存在を感じ取るための手がかりへと変わる。内側にある生活と外側に広がる都市。その両者が薄い膜の上で交わるとき、人の営みは可視化され、存在の痕跡が静かに滲み出してくるのである。
1997年生まれ。中国上海市出身。
2020年に6月に上海工程技術大学写真学科卒業。
写真を媒体として、人間と空間の相互作用を探求している。都市や遺構、生活空間に潜む境界や気配に着目し、個人の知覚や記憶を通して立ち現れる空間の多層性を主題に制作を行う。
展示歴(グループ展)
2017年 『倉城遺韻』 中国・上海 松江美術館
2025年 『The Island』「潮路/最終便後」 福岡アジア美術館
『そして、人になる』
中村 英史郎(なかむら えいしろう)

存在。
人、大きな木、聳え立つビル、物の影。
この世の全てのものは、時間によって塵に還る。
経験は薄れ、感情は奪われ、私たちは世界が欠けていくことにすら気づけない。
写真は私にとって傷だ。
目に見える経験の跡で、記憶の浄化に抗う抵抗のようなものだ。
傷跡は何もネガティブなものでばかりではなく、前に進むためのポジティブな傷跡も存在する。どちらも等しく痛みを伴うものだが、私はその痛みすらも大切に抱え生きてゆきたい。
この果てに、私はようやく、私という人になれるのかもしれない。
2002年生まれ。鹿児島県出身。
「存在」をテーマに写真作品を制作。祖母の死をきっかけに、人間の肌のシワ、らせん階段、ものの影などを、世界を構成する等価な「パーツ」として採集。それらを写真で組み立て直すプロセスを通じ、自らの足で立つ「人」になるための輪郭を模索している。
展示歴(グループ展)
2024年 『#META』「Parallel universe」 art space tetra
『現実を紡ぐ』
楊 燕姝(よう えんしゅ)

「人はどのようにして今の自分になっていくのだろうか」
布はたくさんの糸が交差しながら少しずつ織り上げられていく。
私は、人の現実もそれと同じだと考えている。
成長の経験や趣味の選択、感情や記憶は、それぞれ異なる糸のように重なり合い、「自分」という存在を形づくっていく。
この作品では、友人である梅さんを被写体とし、成長経験や趣味、感情といった側面に着目した。
写真を通して彼女の現実を構成する断片を表現し、一人ひとりが異なる経験を重ねながら現実を織り上げていることを伝えようとした。
1999年生まれ。中国雲南省出身。
現在は人物を対象とし、その内面に存在する多面性を複数の層に分け、それぞれ異なるテーマに沿って写真を制作している。編集の段階では、撮影した現実のイメージを合成・再構成することで、非現実的な視覚表現を生み出している。この制作過程を通して、イメージを新たに織り直し、それを個人が持つ「現実」として再解釈することを試みている。
展示歴(グループ展)
2023年 『融解』「夢景」福岡市美術館
2023年 『韻』「現実遮断」福岡アジア美術館
2024年 『音を放つ』「魘」福岡市美術館
2024年 『すきま』「現実の再構成」福岡アジア美術館
2025年 『The Island』「礁と海」福岡アジア美術館
これまでの展覧会
- 九州産業大学大学院 芸術研究科 造形表現専攻 写真・映像領域 作品展 UNDERCURRENT
- 九州産業大学大学院 芸術研究科 造形表現専攻 写真・映像領域 作品展 Prism
- 九州産業大学大学院 芸術研究科 造形表現専攻 作品展 層をたどる
- 九州産業大学大学院 芸術研究科 造形表現専攻 写真領域 作品展 境遇
- 九州産業大学大学院 芸術研究科 写真・映像領域 作品展 On The Road
- 九州産業大学大学院 芸術研究科写真領域 作品展 野原の蟻、むこうの窓
- 九州産業大学大学院 芸術研究科写真領域 作品展 座標
- 九州産業大学大学院芸術研究科 作品展 採録
- 九州産業大学大学院芸術研究科 写真展 またとない時









本写真展は、九州産業大学大学院芸術研究科写真・映像領域に在籍する大学院生による展覧会「Gazing at the Pulse 脈を見つめる」です。
流れる血潮や生命の鼓動であり、その実態を直接目で見ることはできない「脈」は、目に見えないからといって、そこに「ない」わけではありません。
人々の営みや木々、窓や電柱あるいは都市。一見バラバラに見えるこれらの風景は、その深層に流れる静かな気配や生命のリズムによってつながっています。私たちはカメラを通して、目の前に広がる光景の奥底へ眼差しを向け、見つめ続けてきました。
写し出された対象を、単なる「目に映るだけの被写体」として消費するだけでは終わらせないように。その表層を、突き抜けさらに深くへ、世界の深層に潜む「脈動」を探る私たちの姿勢をここに込めました。
会場に並ぶ多様な視点の交錯を通してから、皆様の日常の裏側にも流れている、静かで確かな脈動を感じ取っていただければ幸いです。
九州産業大学大学院芸術研究科写真・映像領域 出展者一同