商品情報・ストア Feature ソニーの熱設計技術が作り出すインナーウェア装着型ウェアラブルサーモデバイス「REON POCKET」

開発者INTERVIEW(開発者インタビュー)

開発者INTERVIEW(開発者インタビュー)

ソニーの熱設計技術が作り出す

インナーウェア装着型

ウェアラブルサーモデバイス

「REON POCKET」

首もとに装着することで、夏は冷感を冬は温感をユーザーに与えてくれるインナーウェア装着型のウェアラブルサーモデバイス『REON POCKET(レオンポケット)』。これまでソニーがやっていなかった分野の製品であることに加え、ソニーの新規事業創出プログラム「SSAP(Sony Startup Acceleration Program)」のもと2019年夏に実施されたクラウドファンディングが総支援額6900万円という大きな支持を集めたことでも話題になりました。そしてこの夏、いよいよ正式な商品化が決定。早くも猛暑を感じさせる2020年の夏を『REON POCKET』がどのように変えていくのか。その発想の瞬間から今日に至るまでの歩みを2人のエンジニアが語ります。

MEMBER

REON事業室
統括課長
伊藤健二
REON事業室
ソフトウエア開発マネージャー
伊藤陽一
01

通勤中の暑さ、寒さを解消したいという想いが『REON POCKET』開発のきっかけ

まずは、『REON POCKET』がどういった製品なのかを教えてください。

伊藤健二:『REON POCKET』はこれまでになかった全く新しいウェアラブルデバイスです。専用のインナーウェアを介して首もとに密着させ、スマートフォンのアプリから温度をコントロールすることで、装着者に「冷たい」「温かい」という冷温感を付与します。冷温両対応なので、夏も冬もご使用いただけます。

「冷温」だから「REON」なんですね。

伊藤健二:そうなんです(笑)。

『REON POCKET』のような製品はこれまでソニーとして初の試みとなりますが、どうしてこのような製品を開発しようと思ったのでしょうか?

伊藤健二:私が暑がりということもあるのですが、ここ数年、日本の夏がどんどん暑くなっていますよね。そんな中、2017年に仕事で上海に行く機会があり、そこでまさかの40℃の世界を体験しました。国内では2018年の猛暑が記憶に新しいですが、40℃はあれをさらに上回る衝撃的な世界。もちろん建物の中は空調が効いていて心地よいのですが、それだけに外に出た時の暑さが耐えがたいものでした。これを何とかしたいと思ったのが、『REON POCKET』の開発に至る第1のモチベーションです。

なるほど。ただ、『REON POCKET』はテレビやオーディオ機器とは全く異なる製品ですよね。ソニーにそうした製品を開発するノウハウはあったのでしょうか?

伊藤健二:実は私、以前はカメラの設計部署におりまして、一般向け製品から消費電力の大きな業務用放送機器の商品設計を行っておりました。その際、設計の大きな課題の一つとしてICから発生する熱をいかに効率よく処理するというものがあるのですが、私はシミュレーションと実機での検証の両側面から熱設計を進めるということをやっています。ですので、そこで培った技術を活かして何かできるのではないかと考えました。具体的には、熱設計を進める中で研究開発のメンバーから教えてもらった、電圧を掛けると冷たくなったり熱くなったりする「ペルチェ素子」に可能性を感じたんです。実務では使わなかったのですが、面白いと思って個人的に机の下でモバイル機器に仕込めないか研究をしていたんです。

また、その頃から、スマートフォンと連携したIoT機器が急激に進化し始めていて、そこで使われている技術を駆使すれば製品をコンパクトにまとめられそうだなという予感もありました。こちらはソニーの得意分野ですしね。

『REON POCKET』の利用シーン、メインユーザーはどのように想定されていますか?

伊藤陽一:昨年、2019年夏にクラウドファンディングを実施した際はビジネスパーソンが通勤中に利用することを想定していました。夏の暑い中、家を出てから電車に乗るまでの10〜15分がストレスになっている人が多いと聞いており、自分自身、まったく同感だったのでそれを解消したいなと。また、営業のお仕事の方など、真夏でもきちんとした格好で外回りをしなければならない方々にも喜んでいただけるのではないかと考えていました。

ところが、実際にクラウドファンディングをやってみたところ、休日のレジャーで使いたいなど、当初想定していたよりも幅広い用途で使いたいという方がいることが分かりました。ですので、現在では通勤だけにこだわらず、レジャーやちょっとした外出などでも使っていただきたいと思っています。

伊藤健二:クラウドファンディングでご出資いただけた方々には今年3月に製品をお届けしており、すでに多くの感想をいただいているのですが、このご時世、テレワーク中に使っているという方も多いようです。まだ暑さが本格化していない5〜6月に、エアコンを付けるまでもないんだけどちょっと暑苦しいという時などに使っていただけていると聞いています。

02

新規事業創出
プログラムを利用して
プロジェクトがスタート

2017年夏に伊藤健二さんが『REON POCKET』を発想してから、今日に至るまでの開発の流れを改めて確認させてください。

伊藤健二:まず別の案件で同じチームにいた伊藤陽一さんに声をかけて、私がハードウェア、伊藤陽一さんがソフトウェアという形で役割分担しました。もちろん、その頃は2人とも別の仕事がありましたから、合間に少しずつアイデアをかたちにしていき、何となくのハードウェア構成が決まったのが2018年の4月くらいですね。そして、そこから半年くらいは、そもそもこのアイデアに本当に意味があるのかも含め、しっかり時間をかけて検証しました。

伊藤陽一:接触の冷感を提供するという、世の中にまだない新しいタイプのウェアラブルデバイスなので、どのくらいの温度で、どのように制御すればいいのかなど、全てが未知でしたからね。

伊藤健二:どの部位に接触させるかもいろいろ試しました。実は最初は脇の下に装着させようと考えていたんですよ。ただ、実際にやってみると期待したほどの体感がなく……そもそも動きにくいですよね(苦笑)。そのほか、胸や内ももなど、冷やしたり温めたりするとよいと言われている部位は一通り試しています。あらゆるシチュエーションでの検証を行った後、最終的に装着しやすく、脇の下のように動作を阻害しない首元に決めました。個人的にも、ここを冷やすと気持ちいいって感じますしね。

こうした検証をしながら事業計画書をまとめ、2018年9月にソニー社内の新規事業創出プログラム「SSAP(Sony Startup Acceleration Program)」に応募。翌年1月に承認され、4月に正式にプロジェクトが発足、約2か月でプロトタイプを制作し、7月にクラウドファンディングをスタートしています。

03

ソニーの技術とノウハウを駆使して、冷感、温感を効果的に

『REON POCKET』は、接触面を冷やしたり温めたりするとのことですが、具体的にはどれくらい温度を下げたり上げたりしているのでしょうか?

伊藤健二:接触面の温度は、装着者がスマートフォンのアプリで調整する形を取っています。ハードウェアとしてはもっと冷やすこともできるのですが、冷たくなりすぎないように体表面の温度が20℃以下にならないようにしています。

伊藤陽一:こうした数値は、先ほどお話した約半年の検証期間中に徹底的に調べました。一定の温度・湿度に保たれた部屋に入って、様々な温度や制御のパターンで主観の感覚を確認しました。

伊藤健二:『REON POCKET』内部に温度センサーが入っていて低温火傷になるような温度には上がらないようにしています。

また、ソニーのR&Dセンター(研究開発部門)が開発し、さまざまなウェアラブルデバイスで採用されている行動検出アルゴリズムを『REON POCKET』にも採り入れています。このアルゴリズムを使うと、内蔵された加速度センサーで装着者が歩いているのか止まっているのかを瞬時に判定できるので、出勤時、歩き始めは冷感を弱めに設定し、そこから徐々にレベルを上げていき、駅に到着して足を止めたころ、最も暑さを感じるところで冷却力を最大にするということをやっています(AUTO MODEの場合。そのほか、ユーザーが5段階に温度を調整できるマニュアルモードもご利用いただけます)。

思った以上に細かいコントロールをしているんですね。

伊藤陽一:そうなんですよ。そして、AUTO MODEにはもう1つ大きなメリットがあります。冷却力を常時最大に発揮しないためにバッテリーの省エネ化も図れるのです。これによって『REON POCKET』は小型サイズながら長時間駆動も実現しています。なお、冷却動作時、マニュアルモードで温度設定レベル最大(レベル3)の場合、約2.5時間ご使用いただけます。

伊藤健二:ちなみに『REON POCKET』では冷却時、本体下方から空気を取り込み、上方から排気をしています。排気は外気温と比べて+2〜3度なので温風と言うほどでもないのですが、開発当初はもう少し温度が高めで若干気になっていました。省エネ化は発熱の低減にも直結しますから、こうした利用感の向上にも貢献しているんですよ。

『REON POCKET』を体感「心地よい冷感と温感が、暑さ・寒さの
不快さを軽減してくれるのを感じました」

首もとに『REON POCKET』を装着し、スマートフォンのアプリから「COOL」モードをオンにすると、ほんの数秒で接触面の温度が下がり、はっきりと冷感を感じられるようになります。感覚としては額に貼る冷却シートを首もとに貼ったようなイメージが近いかも?しばらくすると冷気がジワジワと背中全体に広がっていき、それに合わせて全身の汗が引いていくのを感じました。エアコンの前に立って冷風を浴びるのと異なる、自然な冷え感が心地よかったです。移動中のストレス軽減はもちろん、オフィスワーク時の集中力も高まるのではないでしょうか。

なお、今回は冬場向けの「WARM」モードも試したのですが、こちらも首筋からほっこりと優しく暖めてくれました。寒い日はもちろん、オフィスが冷えすぎてつらい(けど、言い出せない)という時に使っても良さそうです。

近年、地球温暖化の流れを受けて、多くのメーカーからさまざまなタイプのウェアラブル冷感・温感グッズが発売されています。それらと比べた時の『REON POCKET』のアドバンテージはどんなところにあると考えていますか?

伊藤健二:『REON POCKET』の開発において、私たちが最もこだわったのが「見えない」こと。本体を専用インナーウェアに収納し、洋服の内側に入れるというのは熱設計的にはそうとう不利なんです。吸気口を外に出して外気を取り入れた方が冷却効率は上げやすいのですが、『REON POCKET』ではあえてそれをやっていません。

首筋にぴったりフィットする形状の妙もあって、装着していることが全くわからないですよね。

伊藤健二:実はプロトタイプの段階では真っ平らな板状だったんですが、それだとやっぱりワイシャツ越しに突起になってしまうので、それこそ100パターン近くの形状を試作して現在の形を導き出しています。ちなみに接触面のカーブは伊藤陽一さんの首筋に粘土を貼り付けて、そこから導き出した曲線を元にしているんですよ(笑)。

伊藤陽一:ですので、私の首もとにものすごくフィットします(笑)。

伊藤健二:その後、いろいろな人に試していただきましたが、装着感については好評をいただいています。

たしかに私も装着してみて全く違和感がありませんでした。ところで、冷却・加温を行うペルチェ素子についてはいかがでしょうか? ハードウェア的にソニーならではの技術力を駆使しているところ、ここはマネできないだろうというところがありましたら教えてください。

伊藤健二:実は『REON POCKET』に使っているペルチェ素子は作りが一般的なペルチェ素子とは全く異なります。人の肌に対して適切な冷感を与えつつも、温度を抑え、それによって発熱量も低くするようなものを新たに設計して搭載しているんです。既存のペルチェ素子を買ってきて作れるようなものではないんですよ。

簡単にマネできるようなものではない、と。

伊藤健二:はい。冒頭でソニーのノウハウというお話があったと思うのですが、ソニーのように熱設計を全カテゴリーでやっている会社はそうそうありません。『REON POCKET』には、放熱フィンに使う素材や形状、グリスの特性、そしてその効果をどのように計測し、シミュレーションするかなど、我々が長らく培ってきた知見が数多く盛り込まれています。ソニーの誇るコンパクトな製品の数々は、そうした積み重ねによって生み出されてきました。熱設計はソニーのアイデンティティの1つと言っても過言ではありません。『REON POCKET』はその最新の成果の1つなんですよ。

04

『REON POCKET』専用インナー開発秘話

『REON POCKET』は専用のインナーウェアに装着する形で利用します。この専用インナーウェアにはどんな特徴がありますか?

伊藤健二:まずは吸水速乾性を備えた機能性インナーがほしいという点から生地や仕様の検討をはじめました。

ただ、背中にデバイスを装着するためのポケットのついたインナーウェアを作りたいと言っても、いかんせん前例がなさ過ぎて悩みました。また、当時は私たちも装着の仕方や利用シーンなど含めて商品性を試行錯誤の段階で、コロコロと仕様が変わっていたこともあり、ある程度形になるまでは自分たちで市販のインナーウェアを買ってきて、ポケットを作って、穴を開けて……といったことをやっています。

伊藤陽一:ミシンを持ち込んで何十枚も作っていましたよね。

伊藤健二:ミシンを使うのは高校の家庭科の授業以来だったんですけど、結果的に少し裁縫が上手になりました(笑)。途中からは知り合いの専門学校生に手伝ってもらったりもしましたが、最終的にこの形に決まってからはプロに仕上げてもらっています。私たちが作ったプロトタイプはポケット部分が角張っていて、その部分のステッチが肌に当たって痛かったのですが、縫製を工夫し、袋のような立体的な形状に改良してくださっています。そのおかげで、クラウドファンディングで先行体験してくださっているユーザーからも痛いとか、擦れるといったフィードバックは来ていません。

専用インナーウェアではどういった点にこだわりましたか?

伊藤健二:『REON POCKET』の入れやすさです。ポケットの形状を工夫することで、装着時に必ず口が開き、スルッと入れられるようにしています。また、きちんと『REON POCKET』が首もとに密着するよう、一般的なインナーウェアよりも後ろの半身の肩幅を少し絞ってもらっています。

色はホワイトとベージュの2色展開ですが、この2色はどのようにして決めたのでしょうか?

伊藤陽一:当初はホワイト1色の予定だったのですがお洒落にこだわるビジネスマンには、白いワイシャツにインナーが透けて見えるのがどうしても許せないという方がかなりいらっしゃるようなんです。

価格についてはいかがでしょうか?

伊藤健二:製品の性質上、どうしても2枚、3枚と必要になるものですから、少しでも安くできるようにお願いしています。結果、複雑な形状でありながら1枚1,980円(税込)という低価格を実現しています。

専用インナーウェアの概要:
東レインターナショナル株式会社が提供する専用インナーウェアの背面ポケットは、 本体が首元にフィットするようデザインされており、 本体を専用インナーウェアの背面ポケットに装着して使用することで、 直接首元を冷やしたり温めたりすることができます。
さらに、吸水速乾性を持つ極細繊維のポリエステル生地を採用することで、 柔らかな風合いと着心地の良さを作り出します。
05

『REON POCKET』にはソニーらしさが
詰まっている

最後に記事を読んでいる読者に向けてメッセージをお願いします。

伊藤健二:この製品が環境問題を直接解決できるとは思っていませんが、否応なく変化していく地球環境に対して、何かソリューションを提案したいと思い、『REON POCKET』を開発しました。お客さまの中には、オーディオ&ビジュアルの会社であるソニーが、なんで急にこんなものを作り始めたのか、違和感を覚えている方もいらっしゃると思います。ただ、先ほどもお話したよう、『REON POCKET』の根幹を担っている熱設計の技術はソニーのモバイル機器設計の要素技術の1つ。『REON POCKET』はそれをちょっとだけ目線を変えて応用したものです。音も映像も出ませんが、私としてはものすごくソニーらしい製品に仕上がっていると思っています。

伊藤陽一:新しいものを作ると、お客さまが私たちも想定していなかった新しい使い方を編み出してくださり、大きな刺激を受けます。『REON POCKET』でも、それを期待していますので、ぜひ使っていただき、その感想を聞かせてほしいと思っています。それを受けて『REON POCKET』はさらに進化していきます。私たちはこれで『REON POCKET』が完成したとは思っていません。これからの発展にもご期待ください。


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