「如月千早武道館単独公演『OathONE』」:現場での効率性を高め、ルックも統一できる、Cinema Lineマルチカメラ×「Monitor & Control」

α Universe editorial team

2026 年 1 月 24 日(土)、25(日)の2日間に渡り、日本武道館とライブ配信プラットフォーム・ASOBI STAGEで開催された、如月千早武道館単独公演「OathONE」。ライブ映像の収録には、ソニーのCinema Lineカメラから選抜された4機種計18台のカメラが使用され、さらにカメラと接続してリモートコントロールやクリップの表示・操作を行うことができるアプリケーション「Monitor & Control」も運用された。なぜこの運用方法を選んだのか、実際に使ってみてどのような点に魅力を感じたのか、収録チーム総合指揮の岡村瑛治さん、収録技術を担当した羽田野翔太さん、収録統括の今村智哉さんに話を聞いた。

如月千早武道館単独公演「OathONE」

如月千早は、ゲーム・アニメ・CD・ライブイベントなど多岐にわたって展開する「アイドルマスター」シリーズにおけるアイドルの1人。シリーズの原点となる「765PRO ALLSTARS」のメンバーで、その高い歌唱力から“歌姫”と呼ばれている。今回のxRライブは、シリーズ20周年の歴史で初めてのアイドル単独公演となった。

岡村瑛治主にイベントのダイジェストムービーやアフタームービーを製作する「株式会社 MMT」に所属し、ディレクター業務を担当。最近は音楽ライブ収録配信などの監督業も増えており、今回の武道館ライブでも収録チームの総合指揮をとった。羽田野翔太映像制作会社「株式会社イルージョン」所属。ライブ収録のテクニカルディレクター、カメラマンなど多才に活躍。武道館ライブではライブシューティングテクニカルディレクターとして収録技術を担当した。今村智哉「G・O GAREGE 合同会社」所属。普段はクライアントとテクニカル側の架け橋として、ライブの収録や配信、ライブ後の編集など包括的な管理業務に携わる。今回の武道館ライブではライブシューティングプロダクションマネージャーとして製作業務を担当。

Cinema Lineマルチカメラ運用を決めたのは観客の熱を配信に伝え没入感を感じてほしい

――今回のライブではストリーミング配信が実施され、機種が異なるCinema Lineカメラでのマルチカメラ収録が行われたとのことですが、なぜCinema Lineカメラによるマルチ運用をしたのでしょうか。岡村さん(以下敬称略):私が勤務している会社ではFXシリーズを多用していたので、Cinema Line カメラには絶対的な信頼感がありました。今回の配信では、実写カメラは観客の熱気や会場の雰囲気を伝えるための引き画を撮影するために準備しました。ストリーミング配信では、会場にいるかのような体験を届けたいので、実際の映像と配信用の映像を最適なタイミングで切り替えながら配信しました。如月千早さんの寄りは配信専用の映像に切り替えるなどの演出を織り込み、引き画では、観客の熱狂やペンライトを振って楽しんでいる様子を伝えることを考えました。そこで、ステージのライティングや観客のペンライト、LED を色転びせずに撮影したいという想いから、当初はすべて FX シリーズで揃えようと想定していたのですが、シューティングディレクターの羽田野さんから「描写力の高さが必要なところは『VENICE2』を入れたい」とリクエストがあり「VENICE2」を加えることにしました。結果的に現場では、「VENICE2」1 台、「FX9」5 台、「FX6」3 台、「FX2」9 台、計18台のカメラを使用(うち、FX6、FX2の計12台を Monitor & Controlでのマルチカメラ運用を実施)。ジンバルやレールなどさまざまな特機も導入していたため、適材適所で機材を選定しました。羽田野さん(以下敬称略):今回、センターステージには天井に吊り下げられた上下に稼働する360度のLEDの透過型スクリーンがあり、ステージ中央に如月千早さんが登場する演出でした。「VENICE2」はセンターステージを1階から捉えられる場所に設置しました。会場全体が暗い演出の中で、LEDが点灯していない黒の締まりとさまざまなライティングによる光の演出を伝えるためには「VENICE2」が出すダイナミックレンジが必須と考えました。――今回はCinema Lineのカメラが混在した形になりましたが、とくに懸念されていたことはありますか?羽田野:センサーサイズの違いなどもありましたが、とくに懸念するようなことはなかったです。強いて言うなら、「LUTにのせたとき、『VENICE2』とFXシリーズとでは色の違いが出るかも」ということでしょうか。でも、同じCinema Lineのカメラなのでルックを統一すれば大きな差異は出ないと思っていたのでさほど不安はありませんでした。実際、「VENICE2」の映像もうまく色合わせができましたよね?岡村:そうですね。狙い通りのルックに仕上げることができました。やはり「VENICE2」は色域が広く、色再現性が素晴らしかったです。明らかに照明の色の出方が違いましたから。このように最上位機種とエントリーモデルを併用してもルックを統一できるのが Cinema Lineの魅力です。

コンパクトで仕上がりが美しい「FX2」を多用。「VENICE2」を併用してもルックを統一できる

――「FX2」は9台と運用したカメラの中でも多く使っていましたが、その理由は?

羽田野:「FX2」は引きの定点のほか、ステージ表裏と観客前はジンバルにのせて、客席の中から手持ちで、さらにレールの上を走らせて、と機動力の高さも多用したポイントですが、僕が一番魅力に感じたのは「7Kオーバーサンプリング」です。高解像度の映像を4Kに凝縮することで優れた色再現性や高精細な描写を得られるため、非常にきれいな映像に仕上げることができます。岡村:武道館は通路が狭いので、運用する上ではコンパクトさも必要です。今までならば「α7S III」や「FX3」を選ぶところですが、僕も色味、描写力、表現力の強さに惹かれて「FX2」を多用したいと思いました。「7K オーバーサンプリング」を生かすため、Logで709にプラスアルファのLUTをつくったのもポイントです。このLUTを当てることで照明のきめ細かさや、会場の動きなど、定点の映像がとてもきれいになりました。色のりがよく、白と黒がどこまでも持ち上がるのでカラーグレーディング、カラーコレクションをする上でも非常にありがたかったです。また、今回の現場では「FX2」のベース ISO が 4000 であることが重要でした。「FX3」や「FX6」はベースISOが800と12800ですが、800では暗く12800まで上げる必要はないといったところで、「FX2」のベースISO4000はまさにドンピシャでした。「FX2」はデュアル・ベースISOを採用していることから明るさを上げたにもかかわらず、ISO800と同じような低ノイズでの撮影を行うことができました。羽田野:モニターが明るくきれいなのも良かったです。ライブ会場は基本的に暗い現場ばかりなので、とても見やすくて助かります。あと、手持ちもあったので手ブレ補正の「ダイナミックアクティブモード」もかなり役立ちました。岡村:これは使ってみて驚きました。「FX2」にはクロップするが、手ブレを大幅に軽減する「ダイナミックアクティブモード」が搭載されており、さらに、APS-C サイズに変更しても画質が落ちることなく4K収録ができる。しかも録画中にフルサイズから APS-C に変えられるので、レンズの数値よりも焦点距離を伸ばすことができます。事前にダイナミックアクティブモードに設定してあれば、さらにズームアップできるので、レンズ交換せずに表現力の幅を広げることができるところにも惹かれました。

今村さん(以下敬称略):「FX2」はシリーズの最新機種だけあってコンパクトなボディに欲しい機能がたくさん詰め込まれているのが素晴らしいところ。「FX2」の登場により、どんな環境・予算でも幅広い表現ができるようになったと感じます。音楽ライブにおけるFXシリーズの使用率は非常に高いと感じています。多くのカメラマンがCinema Lineを理解して使用できる点はマルチカメラ運用をしやすくしており、演出の幅が広がっています。

複数のカメラを一括管理できることで時短やコスト削減が可能に

――「Monitor & Control」を運用したそうですが、この運用方法を選んだ理由を聞かせてください。

株式会社 MMT 岡村氏

岡村:「Monitor & Control」での複数台運用については、今回のライブが初めてになります。それまで、外部モニターの代わりにiPhoneやiPadでディレクターが「Monitor & Control」でカメラのフォーカスを合わせる、といった使い方は見知っていましたが、複数台のカメラを一括管理できることは知らなかったんです。今回縁あって運用したのですが、実際に使ってみてとても驚きました。日本武道館という大きな会場で、複数台のカメラを1つのiPad上で見ることができ、さらに設定や操作までできるのですから。羽田野:なかでも素晴らしいのは、接続されているカメラの設定を一括でできてしまうところです。いつもは僕らが仕込みの段階で一つひとつコピーしていたので、時間を短縮できてとても楽でした。今村:例えば「人がつかない固定カメラを20台入れて、「Monitor & Control」でオペレーションします」となれば、そこに対する管理コストも削減できます。予算が限られる中で、人件費を大幅にカットできるのは非常にありがたいことです。カメラ1台につきスタッフ1人が必ずつくわけではありませんが、RECを全部回さなければならないので会場が大きいほど人員は必要になります。でも「Monitor & Control」を使えば、責任者1人が1ヵ所で、iPad上のボタンを1つ押すだけですべてのカメラのREC状態にできるので、時間もコストも大幅にカットできる。本番前にカメラ回す際、全体を待たせてしまうのはよくある話です。でもワンアクションですべてのカメラをREC状態にできれば我々としてもプレッシャーを 感じることなく、心に余裕を持って取り組むことができます。

G・O GAREGE 合同会社 今村氏

岡村:従来の収録現場の場合、1つの画面に何十台と出ているマルチカムビューを見て映像を確認するのですが、一つひとつの画面が小さいんです。でも「Monitor & Control」なら気になるカメラを選ぶとそれをフル画面で映し出すことができる。通常は気になることがあるとテクニカルディレクターやVE、カメラマンなどに確認をとらなければなりませんが、こういったコミュニケーションも不要になり、全部自分の手元で確認して、指示を的確に出すことができます。

Monitor & Controlの公式サイトはこちら

今村:今回のライブは、複数の機種を混ぜて運用するチャレンジでもあったので、未来を見据えたカメラの運用法を試すことができ、収穫のある現場になりました。

人を動かさずに済むためヒューマンエラーを回避。REC状態かどうか常に手元で確認できるのも魅力

――「Monitor & Control」で画期的だった、または有用だと感じた機能はありますか?羽田野:一番画期的だと思ったのは設定が一括でできることですが、LUTを手元で切り替えられるのも便利です。今回は2種類のLUTをすべてのカメラに読み込ませてLUTで収録したので、スタッフをカメラポジションまで行かせずに済みました。今村:1台1台手作業でコピーして、設定を変えるとなると今回のライブでは最低でも30〜40分はかかっていたと思います。ライブでは限られた時間の中で作業しなければなりませんし、人的リソースに関しても4、5人は必要になる。そうなるとヒューマンエラーの可能性も出てくるので、リスク回避できるのもメリットだと思います。羽田野:それと、ライブの定点カメラはモニタリングできないことが多いので、固定カメラだけでも「Monitor & Control」に入れておけばディレクターには利点になりますし、現場スタッフとしても安心感があります。

株式会社イルージョン 羽田野氏

岡村:収録現場では「定点カメラのRECが回っているか」という不安が常につきまといます。でも「Monitor & Control」を使えば手元で回っているかを確認できますし、もし回っていなかったとしてもすぐに回すことができる。ライブ本番中にその不安がなくなるのは精神的にも助かります。今村:ライブ本番中はカメラのRECランプをつけることができないので、確認のしようがないんです。本番終了後に止めに行って「ああ、回ってて良かった」という感じですよね。岡村:あと、フォーカスがずれてしまうこともありますね。今村:今回はその不安はありませんでしたが、バンド系のライブではドラムの振動などでフォーカスがずれてしまうことがあります。固定していても内部でずれてしまうので、撮り終えてから判明するケースもある。ですから、フォーカスも手元で調整できるのもありがたいです。岡村:正直なところ、使う前は「できることは限られているだろう」と思っていたんです。でも実際に会場で使ってみると、やりたいことが全部できてしまって本当に驚きました。1日を通しての感覚的に指示を出すことができましたし、トラブルシューティングへの対応のしやすさも心強く感じました。――実際に運用して、課題に感じたことはありましたか?岡村:事前のセットアップでは「Monitor & Control」を活用できましたが、本番では現場で使用されていた無線機器や館内のフリーWi-Fiなどと混線してしまい、しっかりと確認ができなかったので、そこは今後の課題だと感じました。今村:我々は他の電波まで管理できないので難しいところです。さらに電波は建物の構造にも関係してきますが、正直、日本武道館はかなりシビアだったと思います。アリーナは地下にありコンクリート面が分厚いので特に難しかった。さらにドームクラスになればまた変わるでしょうし、ライブの規模や場所によっていろいろな問題が出てくると思いますが、そこをクリアできればより良い現場づくりに繋がると思っています。

活用法が多彩で夢が広がる「Monitor & Control」。あらゆるシーンで革命を起こす可能性も

――「Monitor & Control」とシネマカメラの運用は、今後どのようなシーンで使えるか、またどんな場面で使ってみたいか聞かせてください。岡村:基本的には複数のカメラを使う現場であればどこで使っても便利だと思います。僕の場合、普段の仕事はダイジェストやイベントムービーの撮影が多く、現場では3〜4台のカメラを使うので、そういった仕事でもぜひ使ってみたいです。また、100〜200 人規模のライブ収録で予算がない、という時も「Monitor & Control」を使えば、複数台のカメラに同時接続でき、カメラマンそれぞれの手元で好きなカメラの映像を見ることができる。配信がなければ「スイッチャーを入れてケーブルを接続する」という機材・人件費を削減ができるのは非常に大きなメリットです。

株式会社 MMT 岡村氏

羽田野:僕はやはり固定カメラの確認ですね。基本的にモニタリングできないことが多いので、そこをアシスタントにチェックしてもらって、何かトラブルがあったら教えてもらう、といったことに使えたらいいな、と思っています。岡村:最近、アイドルの配信や収録には「推しカメラ」がありますよね。設定には触れることができない、観るだけの状態に設定してOBSに繋いで、見ている人がリアルタイムで推しカメラを観られるようになったら楽しいですね。もしこれができれば、アイドル現場にとっては革命です。メンバー全員の映像を1つの端末で完結できれば、その需要は計り知れません。配信収録において、カメラや映像のクオリティはどんどん上がっていますが、やっていることはずっと変わっていないと僕は思っていて。そこが変わったときに映像の世界が大きくステップアップすると思っていますし、「Monitor & Control」でこういったことができれば、間違いなく変革が起こると思います。今村:製作として常に考えているのは、「いかにライブ本体に対して負担をかけないようにするか」ということです。「Monitor & Control」を使うことができれば時短できて流れを止めることもないので、制作側の負担を軽減できます。また、リアルタイムで現状の画を見せることができるので、画角など、クライアントに対してもより提案しやすくなる。クライアントチェックもその場でできてしまうので、後々のポストプロダクションでもチェックがよりスムーズになり、納期が短縮される可能性があるのもメリットです。個人的には「Monitor & Control」をオーケストラでも活用してみたいです。「楽器一つひとつが目立つように固定カメラがつきます」というようなライブも結構ありますから。オーケストラの現場は本番前にステージ上に上がりづらいので、手元で、一括でさまざまな設定ができるのはありがたいこと。客からの見え方もいいので、そういう現場でも活用できればと思っています。

「Monitor & Control」と Cinema Lineの運用は映像業界のスタンダードになる

――「Monitor & Control」や Cinema Line カメラはクリエイターにとってどのような存在になっていくと思われますか。羽田野:「Monitor & Control」はあらゆる現場で必要不可欠なものになっていくと思います。予算がない仕事では iPad でマルチ画面を見ることができて、そこから一括で設定ができるのは大きなメリットです。

今村:「FX2」はCinema Lineのフルサイズモデルで、上位互換のラインアップと変わらない Look を再現でき、かつサイズ的にも輸送の手間がかからない、と魅力が詰まったエントリー機です。今後の映像業界自体がより良いものになっていくワンステップになるのではないでしょうか。岡村:「Monitor & Control」は、iPadを使用する場合、無償では 4 台までですが、月額使用料 3,630 円(税込)の有償版であれば最大20台までカメラを接続できるようになります。価格的に入口としての間口が広いですし、それによって非常に多くのことができるのも素晴らしいところです。個人的には、ソニーのシステムは世界の映像業界で最高峰の基準になっていくと思っています。新しいモデルをどんどん出しているCinema Lineは、業界全体を常にアップデートしている存在です。さらに、「Monitor & Control」のような全体を管理する魅力的なツールが出たことで、「これを使いたいからソニーの Cinema Line を使おう」と逆転の発想をする時代も近いような気がします。現在の映像業界では「このレンズを使いたいからこのカメラにする」ということもよくあるので、「Monitor & Control を使いたいからこの現場はすべてソニーにしましょう」という時代も来るのではないかと思っています。

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