
写真家・嶋田忠が語る「G Masterと共に拓く、見たことのない世界」
写真家 嶋田忠 氏
写真家として長年野鳥を撮影し、46年のキャリアを持つ嶋田忠。その撮影哲学は、カメラを手にする以前から始まっていました。北海道・千歳にあるアトリエで行われたインタビューで語られた機材へのこだわり。その作品づくりの傍らには、長年使い続けてきたG Masterがありました。
嶋田忠 / 写真家 1949年、埼玉県大井村(現ふじみ野市)に生まれる。武蔵野の自然の中で野鳥とともに過ごす。日本大学農獣医学部卒業後、動物雑誌「アニマ」(平凡社)創刊に参加。以後、野鳥を中心に独自の世界を開拓している。1980年、北海道千歳市へ移住。1993年より7年間、テレビ朝日・ニュースステーション特集「嶋田忠の野生の瞬間」シリーズのため、海外で映像作品を制作。2000年より、NHKの自然番組をハイビジョンにて制作。最近は北海道を中心に、海外の極楽鳥など、熱帯雨林の生きものもデジタルカメラで撮影している。2014年12月、千歳市蘭越に常設ギャラリー、嶋田忠ネイチャーフォトギャラリーをオープン。写真集:『カワセミ 清流に翔ぶ』『火の鳥 アカショウビン』『カムイの夜 シマフクロウ』『凍る嘴 厳冬のハンター ヤマセミ』『雪の妖精 シマエナガ』『LAST PARADISE 精霊の踊る森』他。写真、映像作品の受賞:太陽賞、日本写真協会年度賞、日本絵本賞大賞、アメリカ国際映像フェスティバル自然部門ゴールドカメラ賞他。日本写真家協会、日本写真協会、日本鳥学会、日本野鳥の会、日本鳥類保護連盟会員
肉眼では見えない鳥たちの世界を、鮮明に見てみたい野生への畏敬と、観察者としての原点
僕が育ったのは埼玉・川越の隣町、むさし野の農村地帯です。家の周りにはケヤキの大木や竹山があって、無数の野鳥たちが身近にいました。まだ子供たちがスズメを罠で捕まえることが普通だった時代、みんながスズメを追い回している中、僕は竹を切って自作したブラインドに隠れて、鳥をじっと観察していました。「姿を現すと必ず鳥は逃げる」――誰に教わったわけでもなく体で学んだ事が、今も僕の撮影スタイルの核心にあります。完璧に隠れることが第一。それは、半世紀近い撮影活動を経た今も変わりません。幼い頃から鳥を観察し続ける中で、いつも感じていたのは、鳥の動きがあまりに速すぎて肉眼では追いきれないという悔しさでした。小さく、とても繊細な存在でありながら、圧倒的な反射速度と生命力を秘めている。そのことに心を奪われました。羽の1枚1枚、その1枚の羽の中の軸まで見たい。飛翔の瞬間を完全に静止させて、肉眼では絶対に見えない世界を鮮明に解像したい。その欲求は昔から変わっていません。動物の撮影においては彼らの習性を知ることが機材と同じくらい大事です。「写真は頭で撮るもの」と僕はずっと言い続けてきましたが、「頭」とは知識と経験の蓄積のことです。僕は撮影に入る前に、必ず絵コンテを描きます。一冊の写真集分を丸ごと描いてから、撮りに行く。その為には知識が必要です。そこに立って、こっちを向いてと指示ができない相手だからこそ、鳥がどう動くかを知っていないと絵コンテは実現できません。一方で、知識があっても、メカが追いつかないと話になりません。例えばカワセミを止めるには最低1/8000秒から1/10000秒は欲しい。でも『カワセミ:清流に翔ぶ』(著者:嶋田忠/出版:平凡社)を撮影していた当時使っていたカメラのシャッタースピードは1/2000秒しかありませんでした。だから僕はストロボを自分で作ったんです。1/10000秒の閃光時間が出る小型ストロボを16個集め、反射板と組み合わせてユニットを組み、電源はオートバイのバッテリー、三脚を5台立ててリモートで撮影しました。見たい世界を諦めるのではなく、メカで突破する。それが僕の一貫したやり方です。でも今は、当時あれだけ苦労した1/10000秒のシャッタースピードが、αがあれば当たり前に実現できる。僕にとって欠かせない存在なんです。
5点の作品が語る、G Masterの力
僕の場合、レンズも開放F値以外は使いません。常に開放で速いシャッター。標準で1/5000秒。動物撮影はいつ何が起こるか分からないし、シャッタースピードを落とした時に限って何かが起こるからです。何より開放だからこそ、背景もぼけで整理されます。ここからは実際の写真を見ながら話していきましょう。
カエデは樹液が有名じゃないですか。傷ついた木の中をアカゲラがつついて、樹液を舐めるんですよ。温度が下がるとツララになる。これをいろんな鳥が大好きで、特にシマエナガがホバリングしながら舐めるんです。なかなか形のいいツララが少なくて、大きさもちっちゃいとすぐ折れて落ちちゃうし、大きすぎると鳥が小さく見えてしまう。この作品は「逆光で撮りたい」と決めていました。400mmの距離のところに自分がポジションを作れるかどうか――全部そこから始まるんです。逆光で背景のいい木を探したら、自分の小屋の近くにうまいことありました。シャッタースピードは1/8000秒。小さい鳥は羽ばたきが早いですからね。「とにかく1に逆光、2に速いシャッタースピード」。F2.8というのはぼけが綺麗ですから、背景に枝があっても整理できる。羽の一枚一枚や氷の質感まで描写できているのも、このレンズの魅力だと思います。
「センダイムシクイ」変わった名前の鳥ですよね。5月頃に北海道に渡ってくるウグイスの仲間で、スズメより小さい鳥です。枝で鳴いているところを狙っていたら急にパッと動いた。そこに反応してシャッターを押したら、虫が近くに飛んできて、背伸びして捕まえようとしているところでした。まさに偶然撮れた1枚です。撮影した瞬間、何か動いたぞっていうのは分かるけど、虫は見えてなかったんです。「動いた瞬間に反応してシャッターを切れるかどうか」いろんなことを予測して、油断しない意識を持っていれば対応できる、そういう瞬間でした。この時は結構距離があって10メートルほど離れた場所からFE 600mm F4 GM OSS に1.4倍のテレコンバーター(SEL14TC)を付けて撮影しています。その条件でもぼけがきれいですよね。このレンズは解像感もすごくいい。毛の一本一本、ヒゲも見えますよね。1-2ミリしかない虫も捉えられている。高い描写力のこのレンズだから撮れる写真です。
こういうのが子供の時から撮りたかった世界ですよね。――飛翔する鳥の形、羽の広がりまで鮮明に写っている。こういう瞬間を捉えるのは、技術の問題です。例えば木にいた鳥がカメラに向かって飛んでくる場合、最初の10センチがめちゃくちゃ速いんですよ。パーンと木を蹴って一回羽ばたく、そこまでがピンぼけになる。だから「こっちへ飛ぶなと思ったら約10センチ前にピントを合わせておく」。飛ぶ時の仕草を頭に入れて、飛ぶ前にシャッターを押す。飛んでからだともう10センチ過ぎているんです。こういうシーンでα9 IIIは面白くてしょうがないです。グローバルシャッターとプリ撮影、そして最高約120コマ/秒の高速連写には大きな可能性を感じています。30枚から選ぶか120枚から選ぶかって世界なんですよ。120コマの中から翼の形が一番美しい瞬間を選べる。レンズはFE 300mm F2.8 GM OSS。やっぱりF2.8のレンズはぼけがきれいですよね。ピントのシビアさはありますけど、だからこそ合った時の描写が違う。そのことを実感できる作品です。
これは水場で撮った1枚で、イカルが水を飲むために顔を上げる瞬間です。特に口ばしのでかいやつは、ごっくんと飲んだ分がこぼれるのを分かっていて狙いました。プリ撮影も使いながら、頭を上げる瞬間を繰り返し撮り続けるんです。シャッタースピードもかなり速くて1/10000秒。1粒のときも、たくさんのときも、より速い方が水玉はきれいに写ります。しかも顔にはきれいにピントが来て、周りがぼけている。こういうときはもう撮りまくりますね。新しく出た(2026年6月発売)FE 100-400mm F4.5 GM OSSはかなりいいですよ。ぼけがきれいで、解像感もいい。僕の場合、ズームレンズって最望遠端で撮らないんですよ。ちょっとだけ戻す。0.5ミリでも、その方がシャープになる。400mmで撮る場合、377ミリというのが僕の癖になった数字で、本当に絶妙な表現なんですよ。それでも、このレンズはかなりいい。そう思えるくらい描写がしっかりしていますね。
鳥の声を人間の言葉に当てはめて楽しむ「聞きなし」と言うのがあるんですけど、センダイムシクイの鳴き声は「焼酎一杯グイー」。――日本人の感性って面白いですよね。地味な鳥ですけど、ナワバリ宣言ですからね。力強くさえずってる。鳴いている瞬間を撮るためには、特別なことはありません。口を開くか開かないか。一番大きく口を開ける瞬間は、いろんな口を動かして最後に来る場合が多い。だから、もうずっと撮り続けて、その中から拾います。テレコンバーターをつけてもぼけがきれいですよね。このレンズは解像性能も高い。材料が良ければ料理も上手くなるけど、ピントだったり解像みたいなことはやっぱり差がついちゃう。鳥は解像力がないとダメですから。いいレンズがあってこそ、この瞬間は作品になるんです。
機材と共に、まだ見たことのない世界へ
若い頃、私の標準レンズは500ミリだって言っていました。みんな50ミリなのに500ミリって、めちゃくちゃおかしいですよね。それが久々に、FE 100-400mm F4.5 GM OSSが僕の標準レンズになるかもしれません。特に1.4倍のテレコンバーター(SEL14TC)をつけた時の解像がすごくいい。助手席に置いておけばほとんどが済んでしまう。ソニーのイベントでもみんなに言ったんですけど、「このレンズ良すぎて、他のレンズ買わなくなるよ」って。でも、カメラがどれだけ進化しても、その人が「何を見ているか」を決めるのは人間の知識です。知識があるからカメラに撮らせられる。そうすると「写真」でしか見ることが出来ない世界をカメラは見せてくれます。それが道具として扱えるということ。どんなにAIが発展しても、やっぱり写真は自分でやるから面白いんです。
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