自然をもっと身軽に、もっと自由に。井上浩輝氏が語るRX10 Vの可能性

写真家 井上浩輝 氏

α Universe editorial team

井上浩輝 / 写真家 1979年、北海道札幌市生まれ。風景写真の撮影を続ける中、キタキツネを主軸に捉えながら野生動物が織りなす風景を追い求めるようになり、米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』ネイチャー部門で日本人初の1位を獲得。自然写真のみならず航空写真など、多岐にわたるジャンルを撮影し、国内外の広告にも作品が使用されている。最近は映像の撮影にも注力。その活動はドキュメンタリー番組などでも紹介されている。2014年には東京カメラ部10選に選出され、2022年より早稲田大学基幹理工学部非常勤講師として「写真表現」の講義を担当している。公式サイト:https://hirokiinoue.com/

北海道を拠点に、キタキツネをはじめとした野生動物や自然風景を撮影。被写体に余計な観察圧を与えず、その瞬間だけに存在する自然の営みを切り取る作品で多くの支持を集めている。今回は、実際にRX10 Vを使って撮影した井上さんに、自然撮影の現場で感じた魅力や使用感について伺った。

超望遠を気軽に持ち出せる驚き

両手に収まるようなサイズに、24mmから600mm相当(35mm判画角)までをカバーするレンズが収まっている。その作りに、まず大きな期待感を抱きました。シリーズとしてはRX10 IIIから愛用しているため、ある程度の仕様は把握していたわけですが、実際に手に取ってとくに印象的だったのは、そのホールド感です。普段使っているα1やα9、α7シリーズと共通する触り心地に進化しており、初めて触る戸惑いが一切なく、「これならいつもの現場でも間違いなく撮れるだろう」という確かな安心感を持って撮影へ持ち出すことができました。さらに面白いと感じたのは、約1,111g(バッテリーとメモリーカードを含む)という重量の感じ方です。電源を入れる前はいつもの「α1やα9、α7シリーズよりちょっと軽いかな」くらいの印象なのですが、いざ電源を入れて200mm、400mm、600mmとズームしていくと、不思議な感覚に陥ります。ファインダーの中に広がる超望遠の迫力ある映像に対して、手にしている機材があまりにも軽いため、「あれ、なんだかめちゃくちゃ軽いぞ」と、良い意味でのギャップを感じるのです。ここにこのカメラの大きな魅力と強みがあります。

24-600mmがもたらす圧倒的な自由度

35mm判画角相当の焦点距離イメージで言うと24mmから600mm相当までを、レンズ交換なしに自分の好きな画角で撮影できる点に、このカメラの大きな魅力があります。複数のレンズを持ち歩かずに済むため、機材全体を大きく軽量化できるのも大きな利点です。同時に、屋外でレンズを交換する際のリスクを排除できるのがとても大きいと感じています。先日、私が住む町の奥にあるお気に入りの滝へ出向いたのですが、その安心感を強く実感しました。滝の周辺は常に細かい水滴が空気中を漂っています。そうした水っぽい環境で、誤ってセンサーに水滴をつけて絶望することなく、広角で滝の全景を捉え、そのまま望遠で水流の豊かな表情を切り取ることができるのは、撮影時の安心感そのものです。

RX10 V,24mm,F11,1秒,ISO100
RX10 V,100mm,F11,1秒,ISO100

また、その滝までは上り坂を含む20分ほどのちょっとした山歩きになるため、機材が軽いことは体力の消耗を防いでくれて本当に楽でいいものです。さらに、自然撮影の現場では、植生を踏み荒らさないように立ち入れる場所が厳しく制限されていることが少なくありません。被写体との距離を物理的に詰められない状況において、限られた立ち位置から滝全体を写すための広角と、一部をクローズアップして写し止めるための超望遠の両方が必要になります。そうした場面でも、ズームリングを回すだけで24mmから600mm相当まで自在に行き来できるのは、自然撮影の現場でとても心強い体験だと感じました。

自然本来の姿を写し出す600mmの世界

600mmという超望遠はやはり特別で、多くの方が一度は使ってみたいと感じる焦点域だと思います。野生動物、たとえば私が普段から撮影しているキタキツネの例で言えば、300mmや400mmでは個体によってこちらを警戒しているそぶりを見せることがあります。それが600mmになると、大半のキツネはこちらをあまり気にせず、普段通りの生活を見せてくれるように感じます。

RX10 V,600mm,F4,1/1000秒,ISO1250

彼らに強い観察圧をかけず、こちらの意思が介入しないありのままの自然な姿をそっと写し止めることができるのは、この焦点距離ならではの大きな魅力と言えるでしょう。もうひとつ、移動中の飛行機の機窓での出来事です。ぼんやりと外を眺めていると、遠くの空に小さな白い点が見えました。レンズを向けてすっとズームしていくと、100mmあたりでそれが月だとわかり、さらに600mmまで伸ばすと、月の表面の模様までをくっきりと画面いっぱいに引き寄せることができました。

RX10 V,600mm,F5.6,1/1250秒,ISO250

24mmで窓枠を入れて機内の臨場感を表現したカットと、600mmで月のディテールに迫ったカット。レンズを交換することなく、この極端な違いを瞬時に撮り分けられるのが、このカメラの実に楽しいところです。

RX10 V,28mm,F5.6,1/1250秒,ISO200

スマートフォンや一般的なコンパクトデジタルカメラについてですが、大体50mm前後の標準域までであれば、スマートフォンの画面で見る限り見分けがつかないくらい素晴らしい結果を出してくれます。もっとも、100mmを超えたあたりからは、解像感が著しく落ちたりブロックノイズが出たりと、超望遠の世界を綺麗に残すのはまだまだ厳しいという現実があります。1.0型積層型CMOSセンサーと、解像力の高い極上のレンズを組み合わせたRX10 Vの描写力は、そもそもスマートフォンと比べてはいけない次元のものなのかなと思います。

AFと高速連写がもたらす圧倒的な撮影成功率

AIプロセッシングユニットによるリアルタイム認識AFと、最大約30コマ/秒のブラックアウトフリー連写の組み合わせは、撮影の成功率を劇的に高めてくれたと感じています。従来のトラッキング以上に、カメラ側が被写体そのものを正確に認識してくれる恩恵は絶大です。AFの精度と追従を安心してカメラに任せられるため、撮影者は構図づくりや光のまわり方により集中できるようになりました。

RX10 V,50mm,F8,1/1000秒,ISO100

例えば、麦の丘を越えて旭川空港へ着陸進入してくるBoeing767を捉えたカット。認識対象を[飛行機]にしておけば、遠くからでも確実に機体を認識し、大きくなってくれば機首のあたりへ高精度に追従し続けてくれます。この揺るぎない安心感があるからこそ、その分だけフレーミングに集中できるわけです。また、一瞬の動きを捉える場面では、最高約30コマ/秒の高速連写とブラックアウトフリーのファインダーが真価を発揮します。

RX10 V,390mm,F4,1/2500秒,ISO500

こちらの滝登りをするサクラマスを捉えたカットがまさにそうです。画面を跳ねて横切るのはほんの一瞬のことですが、連写中もファインダー像が黒く途切れることなく被写体を視界に捉え続けられるため、瞬時の動きにも惑わされずに追従できます。「この瞬間を確実に写し止められた」という手応えのあるカットを残せるのは、積層型CMOSセンサーと進化したAF性能のおかげと言えるでしょう。

自然の空気感まで描く描写性能

1.0型センサーとZEISSレンズによる描写は非常にバランスがよく、想像以上にしっかりとした写りを楽しめると感じました。もっとも、1.0型センサーですので、フルサイズやAPS-Cサイズの機材に比べればぼけの量は控えめになります。とはいえ、被写体と背景との距離をしっかり取ることで、十分に美しいぼけを得ることができるものです。

RX10 V,600mm,F4,1/60秒,ISO1600

日没後の空へ離陸していく飛行機を写し止めた際も、望遠端でもF4という明るさと、期待以上に効いてくれる強力な手ブレ補正のおかげで、感度の上昇を抑えつつドラマチックな空のグラデーションを残すことができました。現場での確かな描写力に、近年大きく進化したノイズリダクション技術を組み合わせることで、これまで以上に自由度の高い写真表現を楽しめる時代になっているのだと感じています。

動画撮影でも広がる表現の可能性

野生動物や野鳥に強い観察圧をかけず、離れた場所から撮影するネイチャー動画においては、動画撮影時のクロップがむしろ大きなアドバンテージとして働くことがあります。600mmの望遠端が実質的にさらに引き寄せられたような画角となり、テレコンバーターなしで被写体をより大きく写し止められるからです。また、手持ち撮影における使いやすさも特筆すべき点です。ブレが目立ちやすい超望遠域でもフレーミングが安定し、上質な映像を残しやすくなりました。さらに、Catalyst Prepareでジャイロデータを活用した補正をかけることで、手持ち撮影でありながら、三脚を立てて撮ったかのような安定感も得られます。三脚という制約から離れ、より自由な視点で自然と向き合えることも、このカメラで動画を撮る大きな魅力だと感じています。

RX10 Vの総合力が生んだ、お気に入りの一枚

今回のお気に入りの一枚として挙げたいのは、やはり、キツネ母さんと子ギツネたちが駆け出しているこの写真です。

RX10 V,600mm,F4,1/1000秒,ISO1250

これまでにも何度か触れてきたカットですが、撮り手である私を気にすることなく、彼らの日常をそっと覗き見るように自然な姿で撮れているところがとても気に入っています。この一枚は、RX10 Vの素晴らしい特徴がすべて相まって生み出されたものです。600mmという超望遠域、軽量なボディによる機動力、リアルタイム認識AF、そして最大約30コマ/秒のブラックアウトフリー連写。そのすべてが揃ったからこそ生まれた一枚でした。実際には霧が濃く、かなり薄暗い状況でした。それでも、600mm相当の超望遠域で彼らとの距離を保ちながら、息遣いまで伝わるような一枚として残せたことに、RX10 Vの総合力を強く感じています。自然撮影を楽しむ方や、旅先で荷物を減らしつつ本格的な撮影をしたい方にとって、RX10 Vの機動力は大きな武器になります。もっとも、私がいちばんにおすすめしたいのは、重い機材をいくつも背負って歩くのが少し億劫になってきた方や、本格的な超望遠レンズを揃えるハードルの高さに少し気後れして、フィールドから足が遠のいてしまっている方々です。大量の機材を苦労して運ぶこと自体が、写真の目的ではないはずです。かつてのように身軽にフィールドへ入り、自然の息遣いを感じ、偶然の欠片を美しく写し止める。その純粋なよろこびをもう一度味わってみませんか、と優しく誘ってくれるカメラなのかなと思います。まずは一度、現物を手に取ってみてはいかがでしょうか。その圧倒的な軽快さと、ファインダーを覗き込んだときの頼もしいAFや連写性能を体感していただければ、きっとまたフィールドへ出かけたくなる。そんな素敵な体験をもたらしてくれる一台です。

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