
F2通しの描写力と機動力を両立する理想のレンズ:FE 28-70mm F2 GM
写真家 井上浩輝 氏

井上浩輝 / 写真家 1979年札幌市生まれ。北海道で風景写真の撮影をする中、次第にキタキツネを中心に動物がいる美しい風景を追いかけるようになり、2016年に米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』のネイチャー部門において、日本人初の1位を獲得。これまで発表してきた作品には、人間社会の自然への関わり方に対する疑問に端を発した「A Wild Fox Chase」、キタキツネの暮らしぶりを描いた「キタキツネのいるところ」などの作品群がある。写真は国内のみならず海外の広告などでも使用され、2019年には代表作「Fox Chace」のプリントが英国フィリップスのオークションにおいて27,500ボンドで競落されている。現在、写真に加えてTVCMなどの映像の撮影も手がけ、2022年からは早稲田大学基幹理工学部非常勤講師として教壇にも立っている。著書-写真集『follow me ふゆのきつね』日経ナショナルジオグラフィック(2017年)、エッセイ集『北国からの手紙 キタキツネが教えてくれたこと』アスコム(2018年)、絵本『はじめてのゆき』Benesse、2019年、写真集『Look at me! 動物たちと目が合う1/1000秒の世界』KADOKAWA(2020年)、写真集『Romantic Forest おとぎの森の動物たち』PIE International(2020年)など。オフィシャルサイトhttps://hirokiinoue.com/Facebookhttps://www.facebook.com/NorthernIslandColors/?fref=tshttps://www.facebook.com/hirok1.inoue
FE 28-70mm F2 GMを使ってみた感想
近年リリースされているおどろくほどに小型・軽量化されたG Masterのレンズ群に慣れすぎていたせいかもしれませんが、初めて手にしたときは「ちょっと大きいぞ。」と率直に感じました。ただ、αシリーズのカメラに装着してみると、どこか懐かしい雰囲気が漂い、かつての「良いレンズらしさ」を感じさせてくれます。まず、カメラに装着して振り回してみると、その「重量バランスの良さ」に気づきます。撮りたい方向ヘレンズを向けると、手が自然にピタッと止まり、狙った被写体を捉えることが容易です。そして、ファインダーを覗いた瞬間、“ズームレンズとして気持ちの良い解像感”が広がり、「このレンズは空気感をしっかりと写し残せる素敵なレンズだ!」と胸が高鳴りました。
F2通しのズームレンズが広げる表現の可能性
「F2.0」開放で撮影すると、G Masterのレンズならではの深いぼけ味”が感じられます。ナナカマドの写真では、背景の紅葉が柔らかく溶け込み、手前の赤い実が際立っています。F2.0の浅い被写界深度により、主題の存在感をいっそう強調しつつ、背景を美しいぼけ味で整理できます。この「空間の整理」が簡単にできるのはF2.0の恩恵です。(F2.8、F5.6、F8の写真も併せてご確認ください)
また、若いエゾシカの顔を撮影した写真では、輪郭がくっきりと浮かび上がり、背景の草むらがやわらかくぼけることで自然な立体感が生まれています。さらに、F2.0の明るさにより、光量が限られる夕暮れ時でもシャッタースピードをしっかり確保でき、被写体の動きを捉えやすくなります。F2.0の開放絞りを活用することで、主題を際立たせながら余計な背景をぼかす「背景の整理」が可能になり、写真に「空気感」や「立体感」を加えることができます。このレンズは撮影をいっそう楽しくさせてくれると感じました。
過酷な条件でも信頼できるAF性能
このレンズは、野生動物撮影のような厳しい条件でも高い信頼性を発揮します。特に低光量下や複雑な背景の中でも、動きの速い被写体に対して正確かつ迅速にフォーカスを合わせる能力は特筆すべき点です。この信頼性により、撮影者は動物の表情や一瞬の動きを逃さず作品に仕上げることができるでしょう。キタキツネにレンズを向けたとき、α1と協働した瞳AFが素早く機能しました。夕暮れ時の光量が限られた環境にもかかわらず、動物のわずかな動きや、複雑に絡む前景・背景の草をものともせず、ピタッと顔や瞳にフォーカスが合っています。野生動物は一瞬で動いてしまうことが多いため、AFの高速性と追随性能の高さが極めて重要です。このレンズはその要求にしっかりと応えてくれました。
エゾリスを撮影したシーンでは、エゾリスが立ち止まっているように見えても、実際には細かな動きを繰り返していました。F2.0の非常に浅い被写界深度での撮影は、AFが常にピント位置を調整し続ける必要がある厳しい状況です。それでも、AFはかすかな動きに対してしっかりと追随し続けていることが、撮影中もファインダー越しに感じ取れました。後からディスプレイで確認すると、ピント位置のズレはほぼ皆無。被写体の瞳に正確に合焦した美しい結果が得られ、このレンズのAF性能への確信が深まりました。
野生動物とその環境を描く「機動性×表現力」
野生動物撮影では、超望遠単焦点レンズを使うことが多いものの、被写体が生きる環境全体を印象的に残したいときには標準域のレンズが活躍します。このレンズはF2.0の明るさと美しいぼけ味を生かし、動物の表情を鮮明に描きながら、その生息環境も豊かに表現できます。特にズームレンズならではの画角調整の柔軟性が魅力です。エゾリスが木の幹を降りる瞬間を標準域で捉えながら、周囲の背景をふんわりとぼかすことができるのはこのレンズならではの魅力です。単焦点レンズのような描写力を持ちながら、ズームレンズの機動力と汎用性を兼ね備えた本レンズは、自然環境の中で野生動物を印象的に切り取るのに理想的なレンズといえるでしょう。
多様な被写体に対応する万能レンズ
このレンズは、28mmから70mmまでをF2.0通しでカバーすることで、多様な被写体に対して優れた描写力を発揮します。動物撮影では、28mmで環境全体を捉えつつ、70mmで被写体の表情や毛並みを鮮明に描写できます。F2.0の浅い被写界深度により、主題の存在感を際立たせながら背景との自然な立体感を生み出します。
風景撮影では、F2.0の明るさと柔らかなぼけ味が、前景から背景にかけての奥行きや立体感を美しく表現し、シーン全体に深みを加えます。
星景写真の撮影においても十分な性能を発揮してくれます。ワイド端が28mmという点では、もう少し広い画角が欲しくなる場面もありますが、そのために明るい単焦点レンズを持ち出さなくても、手軽に星景写真を撮影できるのは大きな魅力です。F2.0という開放絞り値のおかげで光量が限られた夜空でも十分な明るさを確保し、ISO感度を過度に上げることなく撮影が可能でした。その結果、暗部のノイズは最小限に抑えられ、星々の細かな輝きやシルエットのディテールも美しく描写されています。また、解像感の高さも特筆すべき点です。湖面に映る星や遠くの山並みがシャープに写し出されています。28mmという焦点距離の制約は感じつつも、F2.0の明るさと高い解像性能のおかげで、星景写真を手軽に、かつ高画質で撮影できるのはこのレンズならではの強みです。ノイズを抑えつつディテールまでクリアに描写できるこのレンズは、夜の風景表現にも十分に応えてくれました。
どんな方におすすめしたいレンズか
FE 28-70mm F2 GMは、F2.0通しの明るさとG Masterのレンズならではの描写力を兼ね備えた標準ズームレンズです。動物や風景、星景など多様な撮影シーンに対応し、荷物を最小限に抑えたい方や、単焦点レンズに近い表現力を持つズームレンズを求める方に最適です。約918gの軽量設計ながら、ズーム全域で高い描写性能と柔軟な画角調整が可能で、機動力を損なわずに表現の幅を広げることができます。このレンズは、写真をいっそう印象的に仕上げたい撮影者にとって理想的な選択肢です。
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