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Engineer's Interview ソニーのサラウンドヘッドホン

最新機種「MDR-DS7500」に至るその歩みをたどる。

DVDビデオに加え、Blu-rayが普及してきたことで、サラウンドサウンドの再生環境のニーズは高まっている。しかし日本の住環境においてサラウンドスピーカーの設置ができる人は限られているのが実情。そこで注目されるのが、映画館のような臨場感のある音声を再現する「サラウンドヘッドホン」だ。常に業界の先駆者であり続けるソニーのサラウンドヘッドホンはどのように生まれ、発展してきたのだろうか。その起源から最新機種「MDR-DS7500」までの進化を追ってみたい。

思わぬところに起源を発するサラウンドヘッドホン。

角田直隆氏

ソニー パーソナルエンタテインメント事業部1部主任技師 角田直隆氏

ソニーは今回、同社デジタルサラウンドヘッドホンの最新機種であるMDR-DS7500を発売した。より高音質化を図ったのと同時に、高さ方向、奥行き方向の音場も実現できる新バーチャル7.1chに進化しており。またHDMI入力を3つ装備したことで、より現在のAV事情に即した機種へと変化を遂げている。

ソニーの角田直隆氏によると、このMDR-DS7500に至るまで、サラウンドヘッドホンには長い研究・開発の歴史があるという。

その歴史の中で最初に位置づけられるのは、94年に発売された「VIP-1000」というヘッドホン。これは2chのヘッドホンなので、まったくサラウンドではないのだが、一般の2chのヘッドホンとは抜本的に異なる点があった。それは、これが世界初の「頭外定位ヘッドホン」であるということ。「頭外定位」、ちょっと聞き慣れない言葉だが、これについて角田氏は次のように説明する。

「通常のヘッドホンは左右から音が入ってくる結果、頭の中で音が定位してしまう。これを頭内定位といいます。しかし、CDや映画サウンドなど一般的なソースはスピーカから音を出すことを前提に作られているため、頭内定位ではどうしても違和感を感じることがあります。そこで、まるでスピーカーから出た音をそのまま聴いているかのように、頭の向きを変えても音が聴こえてくる方向が変わらない「頭外定位」の技術をヘッドホンで実現しました。それが「VIP-1000」です」

では、どうしてそんなことが可能なのだろうか?

「スピーカーの場合、右のスピーカーから出た音は当然右耳だけでなく左耳にも聴こえてきます。しかし、スピーカーの位置、方向によって右耳に入ってくる音と左耳に入ってくる音には若干の時間差があるのです。また、単に時間差のみならず、周波数的な変化も伴います。これをヘッドホンにおいてシミュレートするのが頭外定位を実現する基本となります。その計算に用いる式を頭部伝達関数=HRTF(Head Related Transfer Function)と呼んでおり、それをDSPを用いてリアルタイムに演算していくことで、頭外定位を実現するわけです。VIP-1000はそれに加え、外部ユニットと組み合わせたヘッドトラッキングの技術を用いることで、どの方向に頭を向けても、音が聞こえてくる方向は一定になるようになっていました」(角田氏)

そうした斬新なコンセプトを持っていたVIP-1000だが、その技術はその後、意外なところで活かされることになった。

それこそが、「サラウンドヘッドホン」だ。

歴代サラウンドヘッドホンたち

ソニーの歴代サラウンドヘッドホンたち。上段左がMDR-DS5000、上段右がMDR-DS8000。下段は右からMDR-DS7000、MDR-DS7100、そして最新のMDR-DS7500

1990年代後半、DVDの普及に伴い、従来の2チャンネルを越える多チャンネル音声ソースは飛躍的にその数を増した。複数個のスピーカーを用意することで自分の周囲を取り囲むような臨場感あふれるサラウンド効果を実現する多チャンネルサラウンドだが、それをより手軽に、パーソナルユースで楽しむことを目指して登場したのがサラウンドヘッドホンだった。

複数個のスピーカーを前提とした音響を、原理的には2chのヘッドホンで再現する。それを実現させたのが、VIP-1000に用いられていた頭外定位の技術であり、HRTFを用いたシミュレーションだった。それぞれのスピーカーから「左右それぞれの耳に届くまでの」時間差や周波数変化をDSPでシミュレートし、2chのヘッドホンにおいて擬似的に多チャンネルサラウンドを実現させるのだ。

1998年、世界初の5.1ch対応サラウンドヘッドホン「MDR-DS5000」がソニーから発売された。さらに2001年には、5.1chにリアスピーカーを加えた6.1chに対応した「MDR-DS8000」(このモデルはVIP-1000と同様のヘッドトラッキングを搭載していた)を、2005年には従来の赤外線コードレス伝送から、よりノイズの少ない2.4GHz対応のデジタル伝送に置き換えた「MDR-DS6000」がリリースされた。

サラウンドヘッドホン

(左): 頭内定位、頭外定位のイメージ(右): サラウンドヘッドホンによる5.1ch再生音場のイメージ

A B スピーカー

(左): A B スピーカーから耳に達するまでの"音の変化"(右): DSPが"音の変化"を正確にシミュレート

グループ他社との協力体制によって音作りを強化。

ちなみに、2005年のMDR-DS6000からは、サラウンドヘッドホンの音作りにおいて大きく方針が変更されているという。

「MDR-DS8000までの音作りは、音楽ソースをリファレンスに利用して特性を調整していき、最後に映画サウンドでも確認する、という順序になっていました。しかし、サラウンドヘッドホンを使うほとんどのお客様は映画再生用途がメインです。そこでMDR-DS6000では、映画サウンドを中心にチューニングしていく試みをおこなったのです。その結果、エンターテインメント用途にマッチした非常に良い音質を実現でき、製品がヒットしたことでデジタルサラウンドヘッドホンの市場も明らかに一段大きくなりました。」(角田氏)

角田氏によれば、そもそも音楽用と映画用では、低音に対する考え方が大きく異なるのだという。映画の音声はサブウーファーがあることを前提に音作りがされており、サブウーファーによる低音で恐怖感を演出したり、インパクト付けを行っている。そうした映画音声をヘッドホンでどれだけ再現できるかがサラウンドヘッドホンの音作りにおけるポイントになるのだという。

また、MDR-DS6000はソニー社内だけで開発が進められたが、その後、2007年に発売されたMDR-DS7000では、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の協力も得て開発されている。

「サラウンドヘッドホンは映画だけでなく、ゲーム用途にも適しているのではないかということで、SCEに話を聞きに行きました。PS3は音声のサラウンド効果をゲームの中心的エレメントとして位置づけており、事実、PS3用ゲームの多くは多チャンネルサラウンドに標準対応しています。SCEのエンジニアにお願いし、ゲームにおけるサラウンドの音作りについて、徹底的に教えてもらいました。」

結果的に、多チャンネルサラウンド時代のゲーミングを見据えたこのコラボレーションは大成功。MDR-DS7000は大きなヒットをおさめ、2009年発売の後継機「MDR-DS7100」でも協力体制は引き継がれた。

さらに、最新機種のMDR-DS7500では、SCEに加え、映画制作/配給/販売を行なうソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE) の協力も得ている。

Greg Orloff氏 Brian Vessa氏

SPEからは、アカデミー賞受賞作などを手がける著名レコーディングエンジニアのGreg Orloff氏(左)、SPEサウンド部門ダイレクターであるBrian Vessa氏(右)などの監修を得られたという

「SPEへの協力要請については、かなり前から検討していたものの、制作拠点が国外ということもあり、なかなか実行に移せずにいました。ところが3年前、米国のSPEのスタジオを訪問する機会があり、そこでプレゼンテーションとデモンストレーションを行ったところ、音質に関するアドバイスを得られることになったのです。こちらとして、はコンテンツクリエーターの話をきちんと聞くことさえできれば、彼らを満足させる音が実現できるという自信はありましたので、非常に嬉しかったです。結果的には、シアター用に作られたサウンドを、サラウンドヘッドホンというかたちで家庭内で手軽に実現することが可能になったわけで、弊社とSPE、双方ともにメリットになったと思います。」(角田氏)

こうしたコラボレーションの結果生まれたのが、最新機種「MDR-DS7500」だ。

MDR-DS7500

最新の「MDR-DS7500」。ヘッドホンユニットとプロセッサユニットにわかれ、ふたつのあいだは2.4GHz帯で無線伝送される

ヘッドホンユニット

ヘッドホンユニットからプロセッサユニットの電源やモード切替など、あらゆるオペレーションが可能。イヤーパッドは低反発クッションを採用し、装着感は抜群。3Dメガネとの同時装着時の快適性も考慮されている

このMDR-DS7500は、MDR-DS7100と比較すると、どのように進化しているのだろうか?

大きく向上したのは、やはりサウンド。まず、従来の、7.1ch水平配置音場だけでなく、高さ/奥行き方向をプラスした3次元の音場を再現できるようになった。また、エフェクトの「新」シネマモードでは、SPEのサウンドエンジニアの意見を元に徹底したチューンが施されており、映画スタジオが意図した理想的なシアターサウンドをほぼ再現できるようになったという。

3Dサラウンド

3Dサラウンドに対応し、3D映像との親和性も高まった

「新」シネマモードのサウンドについて、角田氏はこう語る。

「サラウンドヘッドホンの音の作りこみの中で大事なポイントは2つあります。それは音場の作り込みとトーンバランス。今回は、SPEが実際の映画をミキシングしているものをリファレンスにすることで、着実な作り込みができました。加えて、実際にSPEのミキシングエンジニアに定期にサウンド確認をお願いしたことで、よりクオリティーの高い音作りが可能になりました。」

このようにして開発されたMDR-DS7500。ヘッドホンという小さな機材を使って映画のサウンドを映画館並みの音質・音場で存分に楽しめるということで、サラウンドサウンドの世界を大きく変化させそうだ。もちろん、ここにいたるまでには、いろいろな苦労もあったようだ。

「そもそもデジタルサラウンドヘッドホンは高度な技術の集合体であり苦労は多いのですが、今回は音質に対するSPEの意見を確実に反映すること、HDMIをヘッドホン用に初実装するあたりで苦労しました。やはり映画業界とテクノロジー業界では、用語というか、使われる言葉が違うので、意思疎通という面で、SPEの要求を技術側がきちんと咀嚼し、反映できているかということについて、常に注意を払いました。一方のHDMIは、システムに対する要求がハード、ソフトともに非常に高いため、通常のヘッドホンの設計体制では取り扱いが困難でした。そこで、AVアンプを設計しているメンバーの多大な協力を得て、なんとか商品化に漕ぎ着けることができました。」(角田氏)

HDMI導入のメリットは、なんといっても昨今のAV機器との接続性向上だが、それ以外にもDTS Master Audio、Dolby True HD、LPCMといった最高グレードのオーディオ信号フォーマットに対応し、さらなる高音質を実現できたことも大きい。

HDMI4系統

従来の入力に加え、HDMI4系統(入力3系統、パススルー出力1系統)が装備されたのがトピック。それにあわせ、対応オーディオ信号フォーマットも強化されている

こうして完成したMDR-DS7500は、まさしくこれまでのソニーのサラウンドヘッドホンの集大成的なものになっている。ヘッドホンでのサラウンドサウンドを聴いたことがない人が初めてその音を聴くとかなり驚く面もあると思うが、ぜひ一度どのように音が聴こえるのか試してみることをお勧めしたい。

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商品情報

デジタルサラウンドヘッドホンシステム

MDR-DS7500

高さ方向と奥行き方向の音場を実現した3D対応7.1chデジタルサラウンドヘッドホン

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