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Engineer's Interview XBAシリーズ AV Watch 開発者インタビュー PART2 藤本 健が開発担当に聞く ソニーBAヘッドホン揃い踏み!

その全てが新しい リスニングタイプ。
リスニングタイプXBA-4SL XBA-3SL XBA-2SL XBA-1SL

XBA-1SL XBA-2SL XBA-3SL XBA-4SL

ソニーが独自開発したバランスド・アーマチュア(BA)・ドライバーユニットを搭載した新型ヘッドホンが計11機種発表された。その中でもラインアップのコアとなるのが「BA プレミアムヘッドホン」リスニングタイプの4種類。 BA プレミアムヘッドホンはBAドライバーユニットそのものの開発と並行して二人三脚で開発が行なわれたが、BAドライバーユニット採用ヘッドホンの設計開発はソニーとして初の取り組みであったため、試行錯誤も多かったようだ。 独自のドライバーユニットまで開発し、ソニーならではの音作りにこだわったBAドライバーユニット採用「BA プレミアムヘッドホン」リスニングモデル。その音作りの秘密に迫ってみよう。

ソニー独自のBAドライバーユニットについては前回取材記事をチェック

XBA-1SL XBA-2SL XBA-3SL XBA-4SL

今回リリースされたソニーのBAインナーイヤーヘッドホン。左からリスニングタイプ、ノイズキャンセリングタイプ、Bluetoothタイプ、 スポーツタイプ。リスニングタイプは搭載ドライバーユニット数によりさらに4タイプに分かれる

ドライバーユニットの試作と並行する形でボディも開発。

鈴木貴大氏

ソニー株式会社 パーソナルイメージング&サウンド事業本部 パーソナルエンタテインメント事業部1部1課 鈴木貴大氏

前回の記事でも紹介したとおり、ソニーがBAドライバーユニットの開発をゼロからスタートしたのは2008年のことだった。ヘッドホン開発一筋に30年間携わってきたヘッドホン技術担当部長の投野耕治氏の音作りに賭ける熱い思いからスタートしたのだ。ゼロからの開発だけに、最初は失敗の連続で、ドライバーユニットから音が出るまでにもかなりの時間を要したというが、そんなバランスド・アーマチュア・ヘッドホンの開発に早い段階からかかわっていたのがソニーのエンジニアである鈴木 貴大氏だ。 投野氏がドライバユニットの試作を作っても、そのままでは人間の耳には聴こえないので、ハウジングに入れ、ヘッドホンの形を構成して初めて音を確認できる。開発に重要なポジションを占めるボディ作りは鈴木氏に任された。

「私もBAドライバーユニットに触れるのは初めてだったのですが、ダイナミックと比較すると音の調整の仕方がまるで違うのです。どこをどうすると何が変わるのか、最初は分からず、まさに手探りでした」と鈴木氏は振り返る。

最初に開発がスタートしたのはフルレンジのBAドライバーユニット。原理試作ということもあり、ひとまず外面のデザインは置いておいて、鈴木氏自らが図面を作成しながらハウジングやボディの開発を行っていったという。ようやく音が出るようになっても、試行錯誤は続いていく。BAドライバーユニット側で穴の位置や大きさを変えると、それがハウジングとの関係でどう作用するのか、ボディ側に通気抵抗をはめるとどういう音になるのか、などといった様々なトライ&エラーを繰り返しながら、少しずつ形状を煮詰めていった。

試作機

鈴木氏が最初に「とりあえず音を鳴らす」ために作ったという試作機

試作機

ボディ形状を煮詰めていくなかで、さまざまな試作機が鈴木氏のハンドメイドで制作された。クラフト感あふれる品々だ

インナーイヤーの設計は音作りの前に装着感から入る

ボディ作りは、ドライバーユニット開発と表裏一体。約1年半かけてフルレンジのBAドライバーユニットが完成したころには、鈴木氏はボディだけでなくBAドライバーユニット開発にもどっぷり足を突っ込んでいた。

「ようやくフルレンジのBAドライバーユニットができあがってきたときには、ボディ側もかなりの完成度になっていたのですが、同時にBAドライバーユニットを2個、3個と増やしていったら]どうなるだろうか……という検討が進んでいきました。確かにBAドライバーユニットを増やせば、音作りの幅も広がるわけですが、ボディとしては大きく変わってきます。3個、4個となってくると、BAドライバーユニットをハウジング内にどう配置するかについても、非常に複雑になってきてしまいます」(鈴木氏)

スケッチ

BAドライバーユニットの配置を検討するために描かれたスケッチ

最終的に、BAドライバーユニット3個の組み合わせは縦に並べる形に、4個は十字型の配置に決まったのだが、それに至るまで、いろいろと検討がなされたようだ。たとえば3個の場合、3つで三角形を作るように配置してみたり、4個を縦に並べてみたり……。もちろんドライバーユニットの特性もあるので、下手な配置の仕方をすると音のバランスが悪くなる可能性もあるし、大きさがボディに収まりきらなくなることもある。

BAドライバーユニットの数によって、ドライバーユニットの配置はもちろん、ボディの形状も大きく変わっている。このボディ形状は、いったいどのように決まっていったのだろうか。

「なによりもまず、装着性が良い、ということが第一です。というのは、ユーザーが快適な装着感を求めるというのもありますが、それと同時に、耳にぴったり装着できれば密閉性が高まり、正しく音が伝わるため、という理由も大きいです。つまり、装着時のフィット感は音とも大きく関連するのです。装着性をよくすることもエンジニアにとって、大きな仕事です」

この気持ちいい装着感を得られるようにするため、とにかく形状試作を大量に作り、自分自身や、はたまた周りの人にも実際に装着してもらうことで、その形状を突き詰めていった。ほかにも、実際に人の耳から型どりしたシリコンの耳型もよく使用された。鈴木氏自身の耳から型どりした耳型も所有しているという。

「自分で実際に装着した際は、装着感に違和感を感じたとしても、ヘッドホンのどの部分が、耳のどの部分にどのように違和感を与えているのか、特定するのは困難です。けれど自分の耳型にヘッドホンを装着してみると、ヘッドホンのこの部分が耳のこの部分に当たっているのか、など違和感の原因を目で見て確認できるわけです。そんな調子で、膨大な数が用意されている耳型を利用しながら、万人にフィットするヘッドホンへと仕上げていくのです」

ソニーのスタジオ用モニターヘッドホンの
デザイナーが新コンセプトを生み出す。

森本 壮 氏

ソニー クリエイティブセンター CPD統括グループ パーソナルオーディオデザインチーム1 プロデューサー/デザイナー 森本 壮 氏

北山 壮平 氏

ソニー クリエイティブワークス プロダクトデザイングループ プロダクトデザインチーム1 デザイナー 北山 壮平 氏

こうして鈴木氏がエンジニアとして「音」の面からボディの設計開発を進める一方で、ヘッドホンをスタイリッシュな最終製品へと仕上げていくために、いよいよデザイナーの力が関与する段階となった。リスニングモデルのデザインを担当したのが森本 壮氏と北山 壮平氏だ。

「われわれのところに話が降りてきたのは、BAドライバーユニットの4種類がだいたい固まってきたころでした。BAドライバーユニット2つの組み合わせ方はほぼ確定していたものの、3つ、4つの組み合わせ方までは決まっていなかったので、4種類作るラインナップのイメージの統一、デザインの統一を図りながら、コンセプトを作っていくというなかなか難しい仕事でした」と語るのは森本氏。

同じ製品を作っていくチームでありながら、エンジニアとは考える方向が違うのも面白いところ。

XBA-2SLのボディ

球形と小判型が合体したような複雑な曲面で構成されるXBA-2SLのボディ

「これまでダイナミック型のインナーイヤーヘッドホンを作ってきたわけですが、ダイナミック型のドライバーユニットは円形をしています。だから丸い形をどう見せるかを念頭において、ヘッドホンもデザインしてきました。しかしBAドライバーユニットは、いわば金属のお弁当箱のような形。この形状をデザインコンセプトとしても「音を出すもの」としての実感がわいてきませんでした。一方、ドライバーユニットが1つの製品から4つの製品まであるので、大きさに違いが出ることは明らかでしたので、それも考慮しなくてはなりません。当初は円筒形をベースにデザインを進めていましたが、そこから不要な要素を削いでいった結果、アーチをデザインとして活かした小判型のような形状になりました」と北山氏。

XBA

ガンメタリックカラーは本体や延長ケーブルのジャック部分にまでほどこされるというこだわりよう(※XBA-1SLを除く)

この二人、実はこれまでのソニーのヘッドホンの柱であるモニターシリーズのデザインを担当してきたメンバー。これらモニターシリーズは、まさに無駄のないプロフェッショナルな製品としてのデザインをしてきたが、 BA プレミアム ヘッドホンはそれとは明らかに異なるデザインコンセプトが必要ということで、試行錯誤が繰り返された。

森本氏がXBA-1とXBA-3、北山氏がXBA-2とXBA-4を担当する形でデザインが進められていったが、リーダーである森本氏はさらにノイズキャンセリング、Bluetooth対応、スポーツ向けモデルを含むBA プレミアム ヘッドホン全体のトーンの統一も手がけた。そこでガンメタリックに赤いラインが入るという、共通のデザインイメージが生まれていったのだ。

製品作りはエンジニアとデザイナーのせめぎ合い。

鈴木氏 投野氏

試作段階からデザイナーを交えての設計段階に移ると、やはりエンジニアとデザイナーのせめぎ合いとなったという。とくに3つ、4つとBAドライバーユニットが増えてくると、デザインも難しくなる。ようやくBAドライバーユニットがキレイに収まったモデルを鈴木氏が確認すると、音に問題がある。音を改善していくと、こんどはデザインが格好悪くなる…といった具合。

「ヘッドホンの音作りの基本はスピーカーと似ています。ウーファーは耳から離れた奥にあっても大丈夫ですが、トゥイーターは鼓膜の近くにないと高域が響いてきません。

その辺をデザイナーと何度もやり取りしながら調整しました」と鈴木氏。

音質と装着感、そしてデザイン。それらの両立を追求する中で、リスニングモデルの4機種それぞれは、明らかに異なったボディ形状を持つようになった。例えば「XBA-3SL/XBA-4SL」では、ほかの機種と異なり音導管を少し斜めに振る形で設計されているし、「XBA-1SL」はシングルユニットゆえに円筒形のような形状をしている。しかし、それぞれが異なるボディ形状でありながらも、きちんと統一されたデザインラインに感じられるのは、デザイナーの試行錯誤の結果なのだ。

ハウジングは全機種2層構造

ハウジングは全機種2層構造。2層構造はソニーのインナーイヤーヘッドホンとしても初だという

ちなみに、リスニングモデルの4機種とも不要な振動を抑え、よりよい音にするためにハウジングは2重構造になっている。インナーハウジングはXBA-1SLでは液晶ポリマー、XBA-2SL XBA-3SL XBA-4SLではマグネシウム合金が採用され、アウターハウジングはすべて制振ABSが使われている。

「シングルのドライバーユニットではハウジングの振動はさほど問題になりませんが、複数のドライバーユニットを搭載するとなると話は別です。振動を可能な限り抑えるためにインナーハウジングにマグネシウム合金を採用しました。ハウジングといえば、BAドライバーユニット搭載のヘッドホンには非常に重要な密閉性を確保するのにも苦労しました。デザイナーといっしょにケーブルの配置なども細かく決めていった結果、ようやく満足のいくものに仕上がりました」(鈴木氏)。

こうした苦労の末に生み出されたのは、まったく新しいドライバーユニットを使ってつくられた、まったく新しいハウジングと、まったく新しいデザイン。BA プレミアム ヘッドホンは、ソニーの新たな一歩を象徴する製品となりそうだ。

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